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彦島のけしき

山口県下関市彦島から、風景・歴史・ものがたりなど…

霊馬神 

霊馬神


豊浦郡豊浦町川棚に「クスの森」とも「霊馬神」とも呼ばれる一本のクスの木がある。
周囲9.5メートル、高さ21メートル、18本の枝を四方に伸ばし、その最も長いものは27メートルに達する。
国の天然記念物指定を受けている巨木。
一本だが遠目にはまるで森のように見えることから「クスの森」と呼ばれた。
そして「霊馬神」の名を生んだのが一頭の名馬の悲しい物語である。


いまから四百数十年前の天文年間のころ、川棚近くの室津岬に雲雀毛の子馬が生まれた。
しかし、母馬はまもなく死に、子馬は毎日母を求め続けていたころのこと。
ある日岬の先端でいなないた子馬の耳に、沖合い約5キロの蓋井島から、かすかに母馬に似たいななきが返ってきた。
「あっ、お母さんだ」
喜んだ子馬は思わず海に飛び込み、何度も浮き沈みしながら母恋しさの一念に支えられて必死で泳いだ。
しかし、ようやくたどりついた島には母馬の姿はなかった。
悲しみの声をあげる子馬の耳に、再び岬の方から母馬に似た声が響いた。

今度こそとこだまを追って幾度となく海を渡り続けるうち、子馬はいつしかたくましい若駒に育ち、雲雀毛の名馬として知られるようになった。
名馬は青山城主黒井判官(一説には大内氏)の乗馬となるが、戦いに傷つき倒れる。
それを葬ったのが、川棚のクスの根元という。

クスの根に埋められた名馬は、その後霊馬となって夜な夜な現れたとも伝わる。
川棚の下小野地区には、霊馬を鎮めるために始まった「クスの木祭り」がいまも続けられている。
祭日は3月28日。
毎年、人々は名馬にあやかる気持ちも込め、それぞれの馬や牛を連れて集まり、木の根元で厄払い祈願をした。
しかし、かつては耕作や運搬の主役として活躍した馬たちの姿も、時代の流れの中で見られなくなった。
いま、祭りは人間たちだけで祝われている。
そして、伝説の名馬を育てた豊浦町に、現在飼われている馬はわずか三頭。
車が入れない山から木材を運び出す荷馬車に余命をつないでいる。
町から完全に姿を消す日も近いと聞いた。


防長紀行第三巻 民話の里 マツノ書店刊より
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Posted on 2020/06/16 Tue. 10:45 [edit]

category: 下関の民話

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