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彦島のけしき

山口県下関市彦島から、風景・歴史・ものがたりなど…

立石稲荷の大石 

立石稲荷の大石


壇の浦立石稲荷神社の下、国道をへだてた海の中に大きな石があります。

形が帽子ににているため烏帽子岩ともいい、この石は立石稲荷のご神体ともいわれており、海難防止の守り神として地元の漁師たちから敬われています。


ところが、いまから六十五年前、この大石がはげしい潮の流れのため海中に倒れたことがあります。
地元の人たちは、もとにもどそうと思いましたが、あまり大きな石だったのでどうすることもできず、そのままにしておきました。

ある日、町内の老漁夫が、倒れている大石に目をやると、何か小さなものが岩にのぼっています。近寄ってよく見るとそれは狐でした。狐がまさか泳ぎにきたわけでもあるまいに、と老漁夫は別に気にもかけずにおりました。
すると、あくる日もまた狐がのぼっているのです。そしてまたその次の日も…

「うむ、これはおかしいわい。狐が何かものいいたげそうにしているが…」
と思いましたが、“さわらぬかみにたたりなし”ということもある、知らぬふりをしておこうと、狐のことは誰にも話さずにいました。

ところが、大石が海中に倒れてから十日くらいたって、壇の浦の町内にいろいろ悪いことが起こりました。
町内にたびたび火災が起こったり、風が続いて漁船が転覆するのです。それがあまりにもたびたび重なるので、しだいに町民たちも不安になって、毎日集まっては相談しましたが、なかなか名案が浮かびません。

きょうも海は荒れていました。老漁夫はしかたなしに網の手入れをしていましたが、そのうちに眠くなりついウトウトしていますと、夢枕にあのいつかの狐が現われ
「みんなして早くあの大石をおこせ、さもないと悪いことはいつまでも続くであろう」
というこわいおつげがありました。

老漁夫は、さっそく皆を集め相談した結果、すぐさま作業にとりかかることにしました。
十何人かの人夫がやとわれ、あの大石はやっとのことでおきました。
しかし、せっかくおこした大石もあくる朝には、また海中に倒れている、そんなことが何度も続いたので町内の若者たちは、
「あのおつげはうそだったんだ」
「いっそ石を粉々に打ち砕いてしまえ」
「うそつきじじいめ」
というやけっぱちな言葉をはきはじめました。

町内の人たちも老漁夫をうたがいの目でみるようになりました。
作業は中止されました。また火事は起こり、船は遭難し、けが人も出ました。

老漁夫は毎日ゆうつでしかたありません。みんなからのけものにされ、一人でしょんぼりと漁具の手入れをして暮らしました。
「あのおつげはうそだったんだろうか。狐も本当に見たし、夢もみたのだが…。いやまてよ、あのおつげは…」
老人は、ゆっくりあのおつげを思い出しました。
「みんなして早く… みんなして…」
「あっ、そうか、みんなして、町民全部が作業にくわわらなくてはいけないのだ、よそから人夫をやとったので、それで神様がおいかりになったのだ」
と、老漁夫は、町内の一軒一軒をまわり、真剣に説得して歩きました。

町民たちも、またこのじじいかと思いましたが、あまり悪いことが続いているので、
「よし、じいさん、こんど失敗したら、この町から追い出すよ」
と、約束させ、それから町内のとしよりも若いものも、女こどもまでが総がかりで石おこしの作業にとりかかりました。

大石はたちました。しかしあくる日はどうなっているのでしょう。
老漁夫は一晩中、心配でねむれませんでした。

やがて、めかり神社のうしから真赤な太陽が顔をだすころ、そろーと戸のすきまからのぞいて見ると、石はちゃんと立っているではありませんか。
「石が立ってるぞー、石がー」
と老漁夫は喜びのあまり、大声をだして町内中に知らせて走り回りました。
やがて町内のもの全員が、大石のまわりに集まり
「やっぱし、わしらの手でおこしたのがよかったんじゃ」
と口々に喜び合い、大石にしめなわを飾ったり、お酒を供えたりしてお祭りをしました。

それからというもの、火事はなくなり、あらしもおさまって、魚がたくさんとれるようになりました。
老漁夫はもちろん長生きをして、町内のものからたいせつにされたということです。


(注)
大石にしめなわをはる「しめなわ祭」の行事は昭和26年からはじめられ、毎年12月の上旬に行われています。


『下関の民話』下関教育委員会編
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Posted on 2019/03/28 Thu. 10:50 [edit]

category: 下関の民話

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