彦島のけしき
山口県下関市彦島から、風景・歴史・ものがたりなど…
はんどうさま
はんどうさま
川中有富上村の東側裏山は、海抜百メートルあまりの山で、いつのころからか“はんどう山”と呼ばれています。
むかし、この付近の村々に恐ろしい暴風雨が襲いました。
嵐は大荒れに荒れて、ついには大竜巻までおこして村といわず、野といわず、山といわず暴れまくってやっと通り過ぎていきました。
あくる朝、村の新右衛門は、きのうの嵐で、田や畑はどうなっているだろうか、眠たい眼をこすりながら見回りに出かけました。
しかし、心配していたほど被害はなく、やれやれ安心したわいと、ぐるりと一回りし、雑木林を通って帰りかけていると、きのうの嵐で葉をもぎ取られた木々の間に大きな瓶があるのに気づきました。
近寄ってみると、古い大きな瓶で、いままでまったく気がつかなかったものでした。
新右衛門は、ちょっと気味が悪かったが手でさわってみたり、のぞいてみたりしました。けれども、どこにも傷はなく、丈夫そうにみえたので、
「ひょっとすると、嵐の置き土産かもしれない。何かに使えそうだ、拾って帰ろう」
と、冗談半分に、この重たい瓶を担いで帰りました。
やがて忙しい稲刈りも過ぎ、すずめが田に落ちた米をついばみに来る季節になりました。
そのころになって、新右衛門は、あの古瓶のことを思い出し、新米を使ってお酒を造ろうと、さっそく瓶を納屋から出し、酒を仕込みました。
数日が過ぎて、酒はいい具合に造れているようでした。
ところが、それからまた、幾日かたったある夜のことでした。
とつぜん家がグラグラ揺れ動き、土間に置いていた酒瓶がわんわんと鳴り響きました。
びっくりぎようてんした新右衛門は、大急ぎで酒瓶を抱きかかえ、表へ飛び出すと前の広場へ放り出しました。
もちろん瓶は、こなごなに壊れてしまい、もうお酒になりかかっていた白米は、あたり一面に散らばって、ぷんぷんといい香りをはなちました。
このありさまは、村の人たちにも知れ渡り、あくる朝、さっそく新右衛門の家に集まって、いろいろ噂話をはじめました。
「これは竜王様の化身に違いない」
「あの大嵐の時、竜巻が暴れまわっている最中、天から降ったものだろう」
「それなら、このまま人里におくことは、まことにもったいない」
「人里はなれた山の頂上にまつったほうがよかろう」
ということになり、村人たちは、こなごなになった瓶の破片を一つ残らず拾い集め、それを丁寧に裏山に運び、その山上にまつったのでした。
村の人たちはいつしか、ここを竜王神社と呼び、この山を“はんどう山”または“竜王山”と呼ぶようになり、神秘的な場所として、村人たちの崇拝するところとなりました。
そしていつのころからか“大嵐”“大竜巻”“竜王”ということがらを結びつけて“水”をもたらす神様だと信仰するようになり、日照りで苦しむときなどは、雨乞祈願をするようになりました。
(注)
はんどう(飯銅・半銅)広辞苑では、茶の湯その他の用に供する金属製の容器とあります。
新右衛門が拾った瓶も、はんどうの形に似ていたことから、はんどう山という名がついたのでしょう。
『下関の民話』下関教育委員会編
川中有富上村の東側裏山は、海抜百メートルあまりの山で、いつのころからか“はんどう山”と呼ばれています。
むかし、この付近の村々に恐ろしい暴風雨が襲いました。
嵐は大荒れに荒れて、ついには大竜巻までおこして村といわず、野といわず、山といわず暴れまくってやっと通り過ぎていきました。
あくる朝、村の新右衛門は、きのうの嵐で、田や畑はどうなっているだろうか、眠たい眼をこすりながら見回りに出かけました。
しかし、心配していたほど被害はなく、やれやれ安心したわいと、ぐるりと一回りし、雑木林を通って帰りかけていると、きのうの嵐で葉をもぎ取られた木々の間に大きな瓶があるのに気づきました。
近寄ってみると、古い大きな瓶で、いままでまったく気がつかなかったものでした。
新右衛門は、ちょっと気味が悪かったが手でさわってみたり、のぞいてみたりしました。けれども、どこにも傷はなく、丈夫そうにみえたので、
「ひょっとすると、嵐の置き土産かもしれない。何かに使えそうだ、拾って帰ろう」
と、冗談半分に、この重たい瓶を担いで帰りました。
やがて忙しい稲刈りも過ぎ、すずめが田に落ちた米をついばみに来る季節になりました。
そのころになって、新右衛門は、あの古瓶のことを思い出し、新米を使ってお酒を造ろうと、さっそく瓶を納屋から出し、酒を仕込みました。
数日が過ぎて、酒はいい具合に造れているようでした。
ところが、それからまた、幾日かたったある夜のことでした。
とつぜん家がグラグラ揺れ動き、土間に置いていた酒瓶がわんわんと鳴り響きました。
びっくりぎようてんした新右衛門は、大急ぎで酒瓶を抱きかかえ、表へ飛び出すと前の広場へ放り出しました。
もちろん瓶は、こなごなに壊れてしまい、もうお酒になりかかっていた白米は、あたり一面に散らばって、ぷんぷんといい香りをはなちました。
このありさまは、村の人たちにも知れ渡り、あくる朝、さっそく新右衛門の家に集まって、いろいろ噂話をはじめました。
「これは竜王様の化身に違いない」
「あの大嵐の時、竜巻が暴れまわっている最中、天から降ったものだろう」
「それなら、このまま人里におくことは、まことにもったいない」
「人里はなれた山の頂上にまつったほうがよかろう」
ということになり、村人たちは、こなごなになった瓶の破片を一つ残らず拾い集め、それを丁寧に裏山に運び、その山上にまつったのでした。
村の人たちはいつしか、ここを竜王神社と呼び、この山を“はんどう山”または“竜王山”と呼ぶようになり、神秘的な場所として、村人たちの崇拝するところとなりました。
そしていつのころからか“大嵐”“大竜巻”“竜王”ということがらを結びつけて“水”をもたらす神様だと信仰するようになり、日照りで苦しむときなどは、雨乞祈願をするようになりました。
(注)
はんどう(飯銅・半銅)広辞苑では、茶の湯その他の用に供する金属製の容器とあります。
新右衛門が拾った瓶も、はんどうの形に似ていたことから、はんどう山という名がついたのでしょう。
『下関の民話』下関教育委員会編
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