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彦島のけしき

山口県下関市彦島から、風景・歴史・ものがたりなど…

龍宮島物語 

龍宮島物語


いまから二千年前の大昔のこと、安岡の北福江というところの沖合いに、龍宮島という島国があり、玄海王という王様が支配していました。

玄海王は大変わがままな王様で、なんでも自分の思い通りにならないと、すぐ家来たちの首をはねてしまいます。
今度もまた、自分が月見をするために、大きな望楼を作ることを家来たちに命じました。
家来たちは王様の御機嫌をそんじては大変なことになるので、さっそく島に住むすべての若い男を人夫としてかり集め、雪解けはじまる春先から工事を進めることにしました。

この人夫の中に、結婚して間もない弥次郎がいました。
弥次郎が働き者なら、その妻の久留見もなかなかの働き者で、その上島でも指折りの美人でした。
幸せの二人もいよいよ別れるときがきました。妻の久留見は、涙ながらに愛する夫を峠まで送っていきました。

家にただ一人残された久留見は毎日心細い日を送っていましたが、出発のさい、夫の弥次郎が庭の一本の楡の木を指差して、
「この木の梢に青葉が繁る頃にはかならず帰ってくるから…」
と、いった言葉を、せめてもの頼りとして待ちわびておりました。

望楼は、毎日、毎日少しずつ高くなっていきます。
弥次郎が出発して二ヶ月たち、三ヶ月たち、そして心の支えだった楡の梢に若葉が繁っても、いとしい夫からはなんの便りもありません。

そのうち望楼は完成し、玄海王は盛大な月見の会を開きました。
やがて黄色く色づいた楡の葉が、はだ寒い秋風にハラハラと散る頃なって、夫の帰りを待つ久留見は、毎日気が気ではありませんでした。

こがらしの吹く頃となりました。
たまりかねた久留見は夜を徹して夫の冬着を作り上げ、それを背負い、夫を探しに出発しました。

険しい山坂を越え、やっと目的地に着きました。
久留見は城壁の周りを夫の名を呼びながら探しましたが、ついにめぐりあうことはできません。
疲れがどっとでて道端の石に寄りかかっていると、一人の老人が心配して声をかけました。
一部始終を老人に打ち明けました。
老人は聞き終わると悲しそうな目をしながら、
「お前さまには、大変気の毒なことだが…、その弥次郎という男はの…、望楼を作るさい人柱にされたのじゃ…」
と、老人も最後には、目に涙をいっぱいためにがら久留見に話してやりました。

久留見はもう怒りと失望のあまりドッと地面に泣き伏しました。
涙があとからあとから流れ出て、三日三晩泣き続けました。
その涙は滝のごとく大川のごとく、ものすごい音を立てて城壁の下を洗い、ついに城壁の一部が激しい音とともに崩れ落ちました。

その物音にふと我に返った久留見は、自分の前に恐ろしいものを見たのです。
それは、人柱にされた夫の亡骸でした。
久留見の嘆きは以前にも増し、ただ気も心もつきはてて夫のそばに泣き崩れるだけでした。

このとき、久留見のようすを望楼の上で見ていた男がいました。
それは、望楼の築造を玄海王から命ぜられた位の高い家来で、久留見の美しさが人並みすぐれているので、王様の奥方にしようと密かに考えていたのです。

そこで、悲しみに泣き崩れている久留見を無理やりにお城に運び込み、玄海王にその事情を話しました。
王様は久留見のあまりの美しさに心をうばわれ、自分の后になるように申し出ましたが、久留見はもちろん断りました。
しかし断れば殺してしまうと脅かされ、それならばと一計を考え次のように申し出ました。
「故郷を眺めることのできる高い山に、手厚く夫を葬ってくだされば、あなたの后となりましょう」
王は、なんだ、そんなことはみやすいことだと、喜んで引き受けました。

やがてひとつの高い山の峰で、手厚い葬式が営まれました。
久留見は涙ながらに、この葬式に列席しましたが、式が終わるのを待って、だれにも見つからないようにこっそりと後の岩山に逃げていきました。

王は、これで久留見は自分の后になってくれるだろうと、久留見を呼びましたが、どこにも見当たらない、さては逃げられたかと、家来たちを叱り飛ばし、八方に捜索隊を出して探させました。

久留見は必死になって逃げるだけ逃げましたが、かよわい女の悲しさ、ついに岩山の頂上で王の部下たちに追いつかれてしまいました。
王の部下たちは、ヒシヒシと迫ってきます。
前は絶壁、真下には白い波が牙をむいて岩にぶつかっています。
絶体絶命、久留見は、もはやこれまでと、
「弥次郎、いまにあなたのそばにまいります…」
と、一声残し、海に向かって真っ逆さまに身を投げました。

王は何百という舟を漕ぎ出して久留見の行方を捜しましたが、ついにその姿を見つけることはできませんでした。

それからというもの、一日一日と、あの大きな龍宮島は海に没しはじめ、ついに大変栄えた玄海王国も滅び去ってしまいました。

そして今は、ただ小さな瀬を残すだけとなり、気のせいか、夫弥次郎を慕う妻久留見の悲しみが瀬の音とともに聞こえてくるようです。

そして後の人は、この背を久留見瀬と呼ぶようになりました。


『下関の民話』下関教育委員会編
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Posted on 2019/04/18 Thu. 11:21 [edit]

category: 下関の民話

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