01 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.» 03

彦島のけしき

山口県下関市彦島から、風景・歴史・ものがたりなど…

天狗さんの寺 

天狗さんの寺


 犀川大橋(さいがわおおはし)のたもとから寺町台(てらまちだい)へ向う急な坂道を、はまぐり坂といいます。
 きょうほう十八年にこのあたりに大火事があり、その後、細い坂道を広い坂道に作り直しました。火に焼けてたっぷり口をあけたはまぐりのようだったので、はまぐり坂とよばれるようになりました。
 坂の上のお寺が妙慶寺(みょうけいじ)。
 大火事の後、近所の人たちは「ふしぎやなぁ、周りはみんな焼けてしもたのに、妙慶寺だけが焼け残った。やっぱり天狗(てんぐ)さんが守っとる、天狗さんの寺や」とうわさしあいました。その後、何回か近くで火事がありましたが、妙慶寺にもえうつったことはありません。

 5代目のじゅうしょくのこうよう上人(しょうにん)、ある日だん家でおきょうをあげた帰り、武蔵が辻(むさしがつじ)あたりを歩いていました。
「ああ、良い天気じゃなぁ。ちょっと近江町(おうみまち)の市場をのぞいて町の人のくらしぶりでも見ようか」
市場は活気にあふれていました。
「おや、なにがあったんだろう」
すぐ先で人だかりがしていました。上人は人がきの後ろからのび上がって中をのぞきこみました。
 一羽のトンビが大ぜいの子どもたちにつかまえられて、羽をばたばたさせていました。口には、売り物の魚がくわえられていました。
「こいつは何べんも魚をぬすんだ悪いトンビや。こんなどろぼうトンビはたたき殺せ」

 人がきをかき分けて前にでたのは、こうよう上人でした。
「ちょっと待って下さらんか。悪いトンビとはいえ、むやみに殺すのはようない」
「いや、おしょうさん。こいつを生かしといたらためにならん。また魚をぬすむがに決まっとる」
トンビは悲しそうな目で上人を見上げました。
「すべての生きもののいのちはただ一つ。そまつにしてはならん。これをわしにゆずってもらえんか。遠くへ連れて行くから」
「うん、おしょうさんが言うならしゃあないな。おしょうさんにまかせまいか」
人がきがくずれ、市場はいつもの様子にもどりました。

 上人はトンビを連れて妙慶寺へ帰りました。けいだいに入り、
「もう悪いことはしてはならんぞ」と、やさしく声をかけ、トンビを放しました。トンビは空高くまい上がり、わをえがきました。
「ああ、今日は良い日やった。わしが通りかからなんだら一つのいのちが消えてしまうところやった。うまくけいだいに住み着くとよいが」
そのうちに上人はねむってしまいました。

 真夜中の事です。上人は部屋の中に人の気配を感じ、はっと目を覚ましました。
「わしは昼間助けられたトンビじゃ。ふだんはトンビのすがたをしとるが本当は天狗じゃ。いのちを助けてもろうたお礼にここへ来た。なにかほしいものがあったらえんりょなく言うがいい」
上人は答えました。
「いや、ただかわいそうやったから助けたまでで、お礼などいらん。なにもほしいものはない」
天狗はしばらく考えていましたが、
「それではこの寺をずっとのちのちまで守る、お守りを残してあげよう」
と言いました。
そして、どこからか大きな八角形の板を取り出すと、自分の手のつめを立てて何かをきざみ始めました。
 そのつめはまるでトンビのようにするどいつめでした。えぐられる板からは木くずが飛びちりました。板に一つの漢字がうき上がってきました。「大」という字です。天狗は板のうらにも字をきざみつけました。「小」という字です。
 できあがると、「これがこの寺をえいきゅうに火事から守るじゃろう」と上人の手にわたしました。その後、天狗はけむりのように消えてしまいました。
「今のはゆめか」
でも手には八角の板がありました。
「ああ、ゆめではない」

 上人はそれをお寺のくりの柱にかけました。大の月には「大」、小の月には「小」が見えるようにかけます。
 このがくは、今も妙慶寺にかけられていて、お寺を火事から守っています。


協力/金沢市
関連記事

Posted on 2012/11/28 Wed. 09:55 [edit]

category: 日本の民話

TB: --    CM: 0

28

コメント

Comment
list

コメントの投稿

Secret

Comment
form