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彦島のけしき

山口県下関市彦島から、風景・歴史・ものがたりなど…

おんなめろ 

おんなめろ


 時は幕末、馬関戦争のころの話じゃ。

 夷狄襲来にそなえ、彦島にもあちこちに台場が築かれた。石ケ原、山床鼻、西山、竹ノ子島などがその要塞の地になったが、一番大きゅうて最も活躍したのが弟子待砲台じゃった。
 その砲台築造の人夫たちの中に、四十歳前後と思われる女丈夫が居った。
 びっくりするほどの大力の女で、人夫仲間で喧嘩が始まりゃあ、必ず割り込んで、騒ぎを大きゅうしたり、腰巻一枚で沖ノ洲まで泳いだりして、その奇行ぶりから『流れの女だてら』とか、『おんなめろ』と呼ばれたもんじゃ。

 こんな話がある。

 ある日、惣十ちゅう者の藻刈り舟が、鎌崎の沖を漕いじょると、おんなめろが、岸から
『オーイ、その舟待てえ。ワシャあ、舟島に行かんにゃあいけんけぇ、ちょっと乗してくれんかぁ』
 惣十は、あんなワヤク(無法)な女に掴まっては大変じゃあ、と思うて、
『わしゃあ、若松まで行くけぇ、島に寄りよったらおそうなる。ほかの舟に頼みなんせえ』
 と断った。
 そしたら、おんなめろは、パッと着物を脱いで腰巻一つになり、海に飛び込んだ。そいで、藻刈り舟を追いはじめた。
 青うなった惣十は、そいでも一生懸命に櫓を漕いで逃げた。ようよう弟子待の沖まで舟を走らせた時、遠くから、
『オーイ』
 という女の声が聞こえてきた。
 振り返ってみると、舟島に泳ぎ着いたおんなめろは、だらりとさがった乳房をぶらんぶらんゆすりながら、
『わりゃあ、おぼいちょれよーっ』
 と、怒鳴りちらしちょったちゅうことじゃ。

 また、こんな話もある。

 弟子待の台場に、新しい大筒(大砲)が運ばれて来た日のことじゃ。
『今日だけは、女が居っては穢れるけえ、大筒据え付けまで、どこかに姿を隠しておけ』
 と申し渡されたところ、おんなめろは、不思議なことに、黙ったまま、どこかへ行ってしもうた。
 ところが、しばらくして戻って来た姿を見て、みんなたまげた。
『これなら、男じゃろうが』
 と、威張りくさって突っ立ったおんなめろは、褌一本の素っ裸で、胸一杯もありそうな乳房をぶらぶらゆさぶっておったのじゃ。そして、
『これみい、金玉もあるけぇ、わしゃあ、立派な男じゃ。この大筒より大けい(大きい)金玉を見い』と、六尺褌をまくって見せた。
 褌の中には、何やら丸いものが入れてあって、たくましゅうにふくれあがっちょったので、武士も人夫もゲラゲラ笑うて、おんなめろを仲間に入れた。

 じゃけど、その後、攘夷戦で四カ国に長州藩がもろくも敗れてしまうと、おんなめろは気違いのように泣きわめいた。
『大筒の据え付けに、ワシが加担したけぇ、長州さまが負けた』
 おんなめろは、日夜、そんなことを口走って泣き明かしちょったが、そのうち、どこへ行ったのか、再び台場にその姿は見られんようになってしもうたとい。


富田義弘著「平家最後の砦 ひこしま昔ばなし」より

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Posted on 2020/02/24 Mon. 09:16 [edit]

category: ひこしま昔ばなし

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