彦島のけしき
山口県下関市彦島から、風景・歴史・ものがたりなど…
お夏だこ
お夏だこ
彦島の西山に、お夏という十八歳になる娘がいました。
娘の家は漁師をしていましたが、家が貧しく、そのうえ両親が病気がちで寝込むことが多く、その分だけ、お夏は人の倍も働き家計を助けていました。
海が荒れている日は、仕事も出来ず、そのためお天気になりそうな日は、まだ暗いうちから起き、支度をし人より早く海に出て仕事をしはじめました。
そのうち父親の病気が悪くなり、もう命もあとわずかというとき、父親は、やせ細った手で娘をまねき、
「娘や、わしはもう一度あのおいしいタコが食べたい。すまないが、タコを捕ってきておくれ」
「でもお父さん、そんなに弱った体に、タコは無理ですよ」
と娘は心配そうにいいましたが、父親は、どうしてもタコが食べたい、死ぬまでにもう一度食べておきたいと、何度も娘に頼みました。
そこで娘は、あくる日、銛を持って海岸に出ました。
箱眼鏡をのぞいてタコを探しますが、なかなか見つかりません。
父親があれほど食べたがっているタコです。
どうしても一匹でも捕って帰らねばと、とうとうお日様が水平線に消えかかる頃まで探しまわりました。
しかし、見つけることができません。
娘はガッカリして帰り支度をしていて、ふと四、五メートル先の岩場を見ると、その向こう側にタコの足らしいものがのぞいています。
しめたと思って娘は静かに岩の反対側に回ってみて驚きました。
そのタコは、タコには違いありませんが、なんと人間より大きいタコでした。
娘はとっさにこう考えました。
「たこは眠っているようだから、足を一本だけ切り取っていこう。そうすれば、また父親が食べたいといったときに捕りにこられる」
娘は用意していた刃物で、用心しながら足を切り取り、持ち帰りました。
あまりに大きかったので、近所の漁師にも分けましたが、一番に、父親は
「あー、これはうまいタコじゃ」といって喜んで食べてくれました。
それから二、三日たつとまた父親は、タコが食べたいといいだしました。
娘はいつかの大ダコのいた場所に行き、また足を一本切り取って帰りました。
こうしたことが何回かあって、あの大ダコの足は、たった一本になってしまいました。
はじめのタコの足を捕ってから、二十日ばかり過ぎていました。
娘はまた父親の願いで、タコのいる場所へでかけました。
娘は、いつもタコが逃げもしないで、眠っているようすなので、今日も安心してタコに近づき、最後の一本を切り取ろうとしました。
しかし、その時、タコは残りの一本を娘の胴に巻きつけ、そのまま海底深く引きずっていきました。
お夏の帰りが、あまり遅いので、母親をはじめ近所の漁師たちが海に出て一日中探しましたが、ついにお夏の姿を見つけることはできませんでした。
それからは、この海岸にあがってくるタコを「お夏だこ」といって、漁師たちは祟りを恐れ、タコを捕らなくなったといいます。
(注)
伝説として語り伝えられているお話の中には、心の優しい孝行な娘の話がいろいろありますが、この「お夏だこ」の話や、「幽霊祭」「福笹」などの話も、そうしたものの一つです。
『下関の民話』下関教育委員会編
彦島の西山に、お夏という十八歳になる娘がいました。
娘の家は漁師をしていましたが、家が貧しく、そのうえ両親が病気がちで寝込むことが多く、その分だけ、お夏は人の倍も働き家計を助けていました。
海が荒れている日は、仕事も出来ず、そのためお天気になりそうな日は、まだ暗いうちから起き、支度をし人より早く海に出て仕事をしはじめました。
そのうち父親の病気が悪くなり、もう命もあとわずかというとき、父親は、やせ細った手で娘をまねき、
「娘や、わしはもう一度あのおいしいタコが食べたい。すまないが、タコを捕ってきておくれ」
「でもお父さん、そんなに弱った体に、タコは無理ですよ」
と娘は心配そうにいいましたが、父親は、どうしてもタコが食べたい、死ぬまでにもう一度食べておきたいと、何度も娘に頼みました。
そこで娘は、あくる日、銛を持って海岸に出ました。
箱眼鏡をのぞいてタコを探しますが、なかなか見つかりません。
父親があれほど食べたがっているタコです。
どうしても一匹でも捕って帰らねばと、とうとうお日様が水平線に消えかかる頃まで探しまわりました。
しかし、見つけることができません。
娘はガッカリして帰り支度をしていて、ふと四、五メートル先の岩場を見ると、その向こう側にタコの足らしいものがのぞいています。
しめたと思って娘は静かに岩の反対側に回ってみて驚きました。
そのタコは、タコには違いありませんが、なんと人間より大きいタコでした。
娘はとっさにこう考えました。
「たこは眠っているようだから、足を一本だけ切り取っていこう。そうすれば、また父親が食べたいといったときに捕りにこられる」
娘は用意していた刃物で、用心しながら足を切り取り、持ち帰りました。
あまりに大きかったので、近所の漁師にも分けましたが、一番に、父親は
「あー、これはうまいタコじゃ」といって喜んで食べてくれました。
それから二、三日たつとまた父親は、タコが食べたいといいだしました。
娘はいつかの大ダコのいた場所に行き、また足を一本切り取って帰りました。
こうしたことが何回かあって、あの大ダコの足は、たった一本になってしまいました。
はじめのタコの足を捕ってから、二十日ばかり過ぎていました。
娘はまた父親の願いで、タコのいる場所へでかけました。
娘は、いつもタコが逃げもしないで、眠っているようすなので、今日も安心してタコに近づき、最後の一本を切り取ろうとしました。
しかし、その時、タコは残りの一本を娘の胴に巻きつけ、そのまま海底深く引きずっていきました。
お夏の帰りが、あまり遅いので、母親をはじめ近所の漁師たちが海に出て一日中探しましたが、ついにお夏の姿を見つけることはできませんでした。
それからは、この海岸にあがってくるタコを「お夏だこ」といって、漁師たちは祟りを恐れ、タコを捕らなくなったといいます。
(注)
伝説として語り伝えられているお話の中には、心の優しい孝行な娘の話がいろいろありますが、この「お夏だこ」の話や、「幽霊祭」「福笹」などの話も、そうしたものの一つです。
『下関の民話』下関教育委員会編
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