04 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31.» 06

彦島のけしき

山口県下関市彦島から、風景・歴史・ものがたりなど…

龍宮島 

龍宮島


 むかし、福浦の港には海賊が出入りして良民を苦しめていた。海賊の屋敷は、この港のあちこちに散らばっていたが、中でも対岸の伝馬島にあるのが一番大きかった。

 ある日のこと、
『あの島の海賊をみんなで退治しようじゃないか』
 という相談がまとまって。村の若い衆が総出で討伐に出かけることになった。

 さて、夜も寝しずまったころ、舟で島に渡り、そぅっと上陸してみたが、どこにも人の気配がない。
『おかしいぞ、こんな筈はない』
 小さな島のこと、みんなで手分けして探し歩いたが、猫の子一匹見つからなかった。
『今夜は、また沖へ出て、悪いことでもしよるんじゃろう。明日の夜、また出なおして来うじゃないか』
 一人の若い衆がそう言ったが、みんなは、なおも、そろっ、そろっと、足音をしのばせて探し歩いた。と、闇のすそからギーっと音がして、一本の松がぐっと傾いた。若者たちは驚いて一斉に身を伏せ、眼をこらした。
 すると、松の根方にぱっくりと穴があいて、雲をつくような大男が出て来た。一人だけではない。二人、三人、四人、九人、十人…と、出るわ出るわ、あとからあとから、数えてみると三十六人。
 大男のくせに足音も立てず、どこからともなく引いてきた船に分乗すると、すーっと屁のように沖へ消えて行った。

 若者たちは、松のまわりに集まって互いに顔を見合わせていたが、突然、一人の度胸者が、松の木を傾けて、根元の穴に入っていった。しばらくの間、ぼゃあっとそれを見ていた若い衆らも、気をとりなおして、そのあとにつづいて入った。

 そして、仰山たまげた。

 穴の中は立派な御殿、いや、さながら龍宮城で、金銀財宝が山と積まれていたからだ。その奥では、美しい着物で着飾った女たちが、ワイワイ騒いで酒盛りの最中であった。
 若者たちは、すっかりその雰囲気にのまれて、しばらく立ちつくしたままだった。すると女たちもそれに気づいたのか、
『まあ、あなた達は、むこう岸からいらしたのですね。私たちは、ずーっと永い間、お待ちしていました。さあ、こちらへどうぞ』と手招きして、大いにもてなしてくれた。
 若者たちは、夢遊病者のようにその宴の輪にさそい込まれ、思わず、時間も目的も忘れて美酒に酔いしれてしまった。
 そうしているうちに、海賊どもがぞろぞろと戻って来て、若ものたちは捕らえられたが、たった一人だけ、命からがら逃げ帰り、村の人びとにこのことを告げた。

 あくる朝、村の人びとは総出で伝馬島に押しかけ、若者たちを救おうとしたが、不思議なことに、前の晩の松はどこにも見当たらなかった。
 その夜から、付近の海を荒らす海賊たちは現れなくなったからそれは良いとしても。とらえられた若い衆の行方も、わからないままであったという。


 海賊が居なくなって静けさを取り戻した福浦の人びとは、伝馬島に若衆たちの墓を建てて『龍宮島』と改め、海賊退治に出向いた人びとの勇気をいつまでも語り伝えた。


富田義弘著「平家最後の砦 ひこしま昔ばなし」より

(注)
龍宮島は、福浦湾の奥まったあたりの、塩浜寄りにある小島であるが、今は陸続きとなっている。
通称、リンゴ山、昔は『海賊島』とも呼ばれていた。
現在、塩浜町の小公園になっているが、この名称は『リュウグウが転じてリンゴになった』と言われている。
尚、この近くには、他にも『海賊谷』『海賊の口』『海賊泊り』『海賊屋敷』などの地名や伝説が残っている。
また、海賊の人数が三十六人というのは、六十三隻江良の逆数であることを考え合わせて、面白い。

関連記事

Posted on 2017/05/09 Tue. 11:21 [edit]

category: ひこしま昔ばなし

TB: --    CM: 0

09

コメント

Comment
list

コメントの投稿

Secret

Comment
form