彦島のけしき
山口県下関市彦島から、風景・歴史・ものがたりなど…
豊関ことばについて 7
豊関ことばについて 7
むかし、伊崎、安岡、安岡、吉見あたりの漁師たちは、
「オダンダーワッチは島でも聞くが、ワシらは沖ィ出て波に聞く」と唄ったものだという。
「オダン」「ダー」「ワッチ」は、いずれも、「私」という意味である。
「オダン」は、主として男性が用い、「ワッチ」は女性、あるいは老人用語であった。
使用範囲は下関全域と北浦、菊川、西市、小月と、かなり広い。
しかし、この場合の「ダー」だけは彦島の海士郷と田ノ首の漁師の間でのみ使われていた。
同じ彦島でもこの二地区以外では全く聞かれなかった「ダー」という一人称は確かに珍しい言葉で、
「オダン・ダー・ワッチは島ことば」
とも唄われたというその背景には「ダー」を使う島びとに対する優越感があったのかもしれない。
しかし、今、海士郷に行って古老を訪ね「ダー」を聞こうとしても、とうてい無理であろう。
それほど方言は、急速にすたれつつある訳だ。
冨田義弘著「下関の方言」赤間関書房刊より
むかし、伊崎、安岡、安岡、吉見あたりの漁師たちは、
「オダンダーワッチは島でも聞くが、ワシらは沖ィ出て波に聞く」と唄ったものだという。
「オダン」「ダー」「ワッチ」は、いずれも、「私」という意味である。
「オダン」は、主として男性が用い、「ワッチ」は女性、あるいは老人用語であった。
使用範囲は下関全域と北浦、菊川、西市、小月と、かなり広い。
しかし、この場合の「ダー」だけは彦島の海士郷と田ノ首の漁師の間でのみ使われていた。
同じ彦島でもこの二地区以外では全く聞かれなかった「ダー」という一人称は確かに珍しい言葉で、
「オダン・ダー・ワッチは島ことば」
とも唄われたというその背景には「ダー」を使う島びとに対する優越感があったのかもしれない。
しかし、今、海士郷に行って古老を訪ね「ダー」を聞こうとしても、とうてい無理であろう。
それほど方言は、急速にすたれつつある訳だ。
冨田義弘著「下関の方言」赤間関書房刊より
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Posted on 2021/06/16 Wed. 10:51 [edit]
category: 下関弁辞典
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16
豊関ことばについて 6
豊関ことばについて 6
「その本、買ったのかい」「うん借ったよ」
「これは、借りたんだろ」「いんにゃ、買うたんや」
これなどは、字に書けば納得いくものの、会話だけならどこまでも意志が通じない。
しかし、「買う」が「買った」と変化するだけではあまりにも単純すぎはしないだろうか。
ここはやはり「買う」は「こうた」と活用されてこそ言葉の味が出ようというものだ。
「行っチョル、見チョル、しチョル」
「ええっチャ、いけんっチャ、駄目っチャ」
これらの「チョル」と「チャ」は、下関だけの言葉でなく、山口県全域で使う。
それは前項の「軍隊で云々」の所でも書いた。
冨田義弘著「下関の方言」赤間関書房刊より
「その本、買ったのかい」「うん借ったよ」
「これは、借りたんだろ」「いんにゃ、買うたんや」
これなどは、字に書けば納得いくものの、会話だけならどこまでも意志が通じない。
しかし、「買う」が「買った」と変化するだけではあまりにも単純すぎはしないだろうか。
ここはやはり「買う」は「こうた」と活用されてこそ言葉の味が出ようというものだ。
「行っチョル、見チョル、しチョル」
「ええっチャ、いけんっチャ、駄目っチャ」
これらの「チョル」と「チャ」は、下関だけの言葉でなく、山口県全域で使う。
それは前項の「軍隊で云々」の所でも書いた。
冨田義弘著「下関の方言」赤間関書房刊より
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Posted on 2021/06/15 Tue. 11:36 [edit]
category: 下関弁辞典
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15
豊関ことばについて 5
豊関ことばについて 5
その二 下関弁の特徴
「下関に来て最初に腹が立ったのは、あいづちを打つのに『ああそうだ』と言わずに『アア、ソレソレ』と言われた時ですよ。まるで自分がからかわれているように思えてねぇ」
国鉄のSさんは遠い昔を思い出すような眼で私にこう言った。
何気なく口をついて出る言葉「アアソレカネ」とか「ソレソレ」とか「ホントデスカ」などは、聞きなれない人にとっては馬鹿にされているように聞こえるものらしい。
「行くホ」「どうするソ」などのように語尾に付ける「ホ」や「ソ」は、疑問、否定、肯定、いずれの場合にも使い分けるが、これはアクセントによって区分する。
「行くの、行かないの」と言う場合の「の」が、「ソ」「ホ」にあたる訳である。
「フン好き」という言葉も最近では死語になりつつあるが、下関らしいものの一つであろう。
この場合の「フン」は「とても」という意味である。
「フン好かん」となれば「大嫌い」。
「頭がワルイし、体はエライ」と言えば関東の人は驚くが、これなどは、頭痛はするし、体はだるい、という意味で愛嬌がある。
「壊れたラジオ、なおしとけよ」と言われて、
「ああ、洗濯物と一緒に、なおしたよ」と答えが返ってくれば、まるで通じていなかったことになる。
これは「修理しておけ」と言われて、「取り込んだ洗濯物と一緒に片付けた」と答えたからだ。
「背中をスッテやろうか」と親切に言って、
「スルんじゃなくて、流すんだろッ」と言われたことがある。
確かに「流す」が標準語になっているが、タオルに石鹸をなすりつけて「スッテ」から、湯で洗い「流す」から、「スル」という言葉もあやまりではない筈だ。
冨田義弘著「下関の方言」赤間関書房刊より
その二 下関弁の特徴
「下関に来て最初に腹が立ったのは、あいづちを打つのに『ああそうだ』と言わずに『アア、ソレソレ』と言われた時ですよ。まるで自分がからかわれているように思えてねぇ」
国鉄のSさんは遠い昔を思い出すような眼で私にこう言った。
何気なく口をついて出る言葉「アアソレカネ」とか「ソレソレ」とか「ホントデスカ」などは、聞きなれない人にとっては馬鹿にされているように聞こえるものらしい。
「行くホ」「どうするソ」などのように語尾に付ける「ホ」や「ソ」は、疑問、否定、肯定、いずれの場合にも使い分けるが、これはアクセントによって区分する。
「行くの、行かないの」と言う場合の「の」が、「ソ」「ホ」にあたる訳である。
「フン好き」という言葉も最近では死語になりつつあるが、下関らしいものの一つであろう。
この場合の「フン」は「とても」という意味である。
「フン好かん」となれば「大嫌い」。
「頭がワルイし、体はエライ」と言えば関東の人は驚くが、これなどは、頭痛はするし、体はだるい、という意味で愛嬌がある。
「壊れたラジオ、なおしとけよ」と言われて、
「ああ、洗濯物と一緒に、なおしたよ」と答えが返ってくれば、まるで通じていなかったことになる。
これは「修理しておけ」と言われて、「取り込んだ洗濯物と一緒に片付けた」と答えたからだ。
「背中をスッテやろうか」と親切に言って、
「スルんじゃなくて、流すんだろッ」と言われたことがある。
確かに「流す」が標準語になっているが、タオルに石鹸をなすりつけて「スッテ」から、湯で洗い「流す」から、「スル」という言葉もあやまりではない筈だ。
冨田義弘著「下関の方言」赤間関書房刊より
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Posted on 2021/06/14 Mon. 09:38 [edit]
category: 下関弁辞典
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14
豊関ことばについて 4
豊関ことばについて 4
それは、下関と門司との間を流れるものが、川でなく、海であることを強く感じさせる。
もしもこの海峡が川であったなら、川岸をどこまでも上流へ向かって進み、水源へ達すれば、そこは一つの地続きになる筈だ。
だが、海はどこまでも二つのものを切り離して一つにはしない。
そこに、川と海との違いがあり、住む人々の心を無意識のうちに大きく引き離してしまうものがあるのかもしれない。
また、下関という土地は早くからひらけ、藩制時代には北前船の寄港地であった。
大阪の堺港や長崎と共に栄華を誇った港町だから都会的な雰囲気や植民地的な要素もあって、土着語の上に、共通語が定着していったと考えられないことも無い。
全国共通語… それが下関では早くから使われていたのだ。
だから、抑揚の少ない平板な言葉が下関の特徴となったのであろう。
例えば、北海道や、終戦前の台湾や満州で共通語が使われていたように。
冨田義弘著「下関の方言」赤間関書房刊より
それは、下関と門司との間を流れるものが、川でなく、海であることを強く感じさせる。
もしもこの海峡が川であったなら、川岸をどこまでも上流へ向かって進み、水源へ達すれば、そこは一つの地続きになる筈だ。
だが、海はどこまでも二つのものを切り離して一つにはしない。
そこに、川と海との違いがあり、住む人々の心を無意識のうちに大きく引き離してしまうものがあるのかもしれない。
また、下関という土地は早くからひらけ、藩制時代には北前船の寄港地であった。
大阪の堺港や長崎と共に栄華を誇った港町だから都会的な雰囲気や植民地的な要素もあって、土着語の上に、共通語が定着していったと考えられないことも無い。
全国共通語… それが下関では早くから使われていたのだ。
だから、抑揚の少ない平板な言葉が下関の特徴となったのであろう。
例えば、北海道や、終戦前の台湾や満州で共通語が使われていたように。
冨田義弘著「下関の方言」赤間関書房刊より
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Posted on 2021/06/11 Fri. 10:47 [edit]
category: 下関弁辞典
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豊関ことばについて 3
豊関ことばについて 3
さて、これらの山口弁にくらべて、下関周辺の言葉には、特徴のある訛りはほとんど見当たらない。
すなわち「アリマス」も無ければ「ノンタ」も無い。
むしろ、アクセントの少ない、平板な言葉、それが下関周辺の方言の特徴と言えば言えそうである。
だから、下関駅や市内の観光地などに「フク笛」の歓迎塔を建てて「オイデマセ」と平仮名で大書している関係者に対して不満の声を漏らす市民は多い。
また下関の旧称「馬関」や宇部、萩なども、平たくバカン、ウべ、ハギと呼ぶべきだが、放送関係のアナウンサーは必ず「馬関」のバ、宇部のウ、萩のハにアクセントを付ける。
これなどは、明らかに地元を無視した呼び方で、不快この上ない。
抑揚の少ない下関とその周辺の言葉は、山口県内でも特異な地域であるが、それは何故だろうか。
関門海峡という僅か一キロ足らずの潮の流れを隔てた門司の町は九州の一角だから、当然、九州弁の町である。
しかし、下関という土地は、目と鼻の先で聞かれる九州言葉でさえも、その侵入を許していない。
とちらかと言えば下関コトバは、本州に共通するものであって、九州弁らしい匂いさえ受け入れないのである。
冨田義弘著「下関の方言」赤間関書房刊より
さて、これらの山口弁にくらべて、下関周辺の言葉には、特徴のある訛りはほとんど見当たらない。
すなわち「アリマス」も無ければ「ノンタ」も無い。
むしろ、アクセントの少ない、平板な言葉、それが下関周辺の方言の特徴と言えば言えそうである。
だから、下関駅や市内の観光地などに「フク笛」の歓迎塔を建てて「オイデマセ」と平仮名で大書している関係者に対して不満の声を漏らす市民は多い。
また下関の旧称「馬関」や宇部、萩なども、平たくバカン、ウべ、ハギと呼ぶべきだが、放送関係のアナウンサーは必ず「馬関」のバ、宇部のウ、萩のハにアクセントを付ける。
これなどは、明らかに地元を無視した呼び方で、不快この上ない。
抑揚の少ない下関とその周辺の言葉は、山口県内でも特異な地域であるが、それは何故だろうか。
関門海峡という僅か一キロ足らずの潮の流れを隔てた門司の町は九州の一角だから、当然、九州弁の町である。
しかし、下関という土地は、目と鼻の先で聞かれる九州言葉でさえも、その侵入を許していない。
とちらかと言えば下関コトバは、本州に共通するものであって、九州弁らしい匂いさえ受け入れないのである。
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Posted on 2021/06/10 Thu. 12:00 [edit]
category: 下関弁辞典
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