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彦島のけしき

山口県下関市彦島から、風景・歴史・ものがたりなど…

長門毘沙門天 

長門毘沙門天


下関市長府松小田の四王司山(392メートル)。
周防灘、北九州を一望のもとに見下ろす頂上に、一体の毘沙門天がある。
貞観9年、清和天皇は外敵に対する守り神として五体の毘沙門天像を因幡、伯耆、出雲、石見、長門の五国に下し、海辺の山頂に祭ったという。
他の四体の行方が知れぬ中で、長門毘沙門天は地元の人の厚い信仰に守られ、福徳開運の神として崇拝を集めている。
縁日は正月初めの寅の日。
「初寅詣で」にはいまも、県内各地から集まった数万の人々が急な山道を登り、一年の幸せを祈って縁起物の張子の虎を下げたササの葉を買って山を下る。
しかし、このササの葉に秘められた物語を知っている人は何人いるだろうか。


四王司山を望む小月の里に、八重というきりょうよしで働き者の娘がいた。
庄屋から息子の嫁にと望まれながら、貧しさゆえに「つり合わぬは不縁のもと」と、年とった母と二人暮らしを続けていたある正月のこと、「明日は初寅じゃが、お参りにいかんか」とおじが訪ねてきた。
若い娘にとって「初寅詣で」は晴れ着を競う場。
着物一つ買ってやれんで、とつらがる母を思って、八重は首を横にふった。

「それじゃ、わしがかわりに福をもろうて来ちゃるでの」
しかし、おじさんが約束を思い出したまは、山を下ったあとだった。
「どうしたもんかのう」、困り果てたときに藪の中でウグイスの鳴く声が耳に入った。
見るとササ葉が夕日に照らされ、美しく輝いている。
思わずササを一本折り取ったおじさんは、それをみやげがわりに八重に渡した。
八重はそのササを大切に神棚に祭ったが、翌朝になるとササの葉は小判にかわりキラキラ輝いていた。
「毘沙門天様のおさずけ」、その小判で嫁入り仕度もととのえた八重は春三月、庄屋の息子に嫁ぎ、末永く幸せに暮らし、以来ササの葉は毘沙門天の福飾りとして、初寅詣でに欠かせぬものになった。


四王司神社の役員代表、石川秀雄さんもこの話を知らなかった。
しかし、八重の話は忘れられても、毘沙門天に寄せる人々の信心は変らない。
石川さんら松小田地区の人々はいまも参道修復などの奉仕を続けている。
頂上の神社まで約60分。
そこを人々は初寅の日の午前零時に参るため、暗やみの中をのぼる。
今年も神社ではこの日、特別に祈願のため鳴らす鈴を三ヶ所につけたが、人々は鈴の緒を奪い合い、必死で取りすがった。

「警察は、あんまり混雑しすぎて危険だから鈴を四ヶ所につけろというんだが、そんなことをしたら神社が引き倒されてしまうんで三ヶ所にしてるんですよ」と石川さんが教えてくれた。


防長紀行第三巻 民話の里 マツノ書店刊より
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Posted on 2020/07/16 Thu. 09:46 [edit]

category: 下関の民話

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