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彦島のけしき

山口県下関市彦島から、風景・歴史・ものがたりなど…

蟹島 

蟹島


 むかし、むかし、大むかし、下関の火ノ山は、その名の通り、火を噴く火山であった。

 ある年、火ノ山が大爆発を起こした。そして噴き上げられた熔岩は、響灘へと流れ込んだ。
 そのころ、響灘には大群のカニが棲んでいたが、その大半は身を挺して熔岩をせき止め、残る半分は、懸命に鋏み止めたという。

 この時の何千億というカニの死骸は山となって、一つの島が出来た。
 それが、響灘に浮かぶ『蟹島』で、空からこの島を見ると、今でも、カニそっくりであるという。
 そしてこの島には、北の浜に『蟹の背』という瀬があり、森の中には『蟹の目』と呼ばれる所が残っているが、昔からこの島の人びとは、絶対にカニを食べなかったという。


富田義弘著「平家最後の砦 ひこしま昔ばなし」より

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Posted on 2020/03/31 Tue. 09:07 [edit]

category: ひこしま昔ばなし

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舟島怪談 貝のうらみ 

舟島怪談 貝のうらみ


 むかし、舟島に若者がたった一人で住んでいました。若者は、島のまわりで仰山とれる貝を売って、その日その日を暮らしていました。このあたりでは、浅利、蛤、馬刀貝はもちろんのこと、一尺四方もある帆立貝や、面白い形をしたコウボ貝にツウボ貝なども鍬を打ち込んだだけで、ざくざく採れました。

 ある夏の夕凪ぎのひどい夜でした。

 じっとり汗ばむ寝苦しさに悶々としていると、トントンと裏戸を叩く者が居ます。
『こんな夜更けに、一体誰だろう』
 眼をこすりながら出てみると、十七、八の美しい娘が立っていました。
『夜分おそく、すみません。でも、ちょっとお話があるんですけど、入れていただけませんでしょうか』
 娘はうつむいて言いました。若者は、その美しさに魅せられて、何を言われたのかも解らず、しばらくぽかーんとしていましたが、ふと我に返って奥に通しました。

『一体…… 今頃…… あなたは…… 来たんでしょ……いや、どこから来たんでしょうか』
 若者は、しどろもどろに訊ねました。しかし、娘は、畳に三つ指をついたまま、黙って答えません。何を話して良いか判らず、若者は戸惑って、おろおろするばかりでした。
 例年にない蒸し暑さのせいだけでなく、ひたいにも背中にも、じわーっと汗が吹き出してきます。二人は黙ったまま、しんしんと更けてゆく夜の音を感じていました。

 と、娘が、はずかしそうに顔をあげ、小さな声で、それでもはっきりとこう言いました。
『私を、あなたのお嫁にして下さい』
 仰天する、というのは、この時の若者の驚き振りを言うのでしょう。彼は、目の前の、夜目にも白く美しい娘の顔をぼんやり見つめながら、口をもぐもぐとさせるばかりでした。
 闇のむこうで、娘はにっこり笑いました。そして、頬を紅潮させながら、そっと寄りかかってきました。娘の甘い香りが二人をあたたかく包んで、若者は病人のように力なく手をのばして、その肩を抱きました。

 それからのことは覚えていません。何か恐ろしいような、嬉しいような、そんないぶかりの中に、天にも昇るような喜びがあったような気がします。
 そして、いつのまにか、若者は眠っていました。

 あくる朝、ふと眼をさますと、昨夜の娘はどこにも居ません。家の中も、いつもと変ったところはなく、
『ゆっぱり、あれは夢だったのか』
 と、がっかりしました。でも、まぶしい朝の光を仰ぐと、若者は急に元気を取り戻し、いつものように漁に出かけました。

 夜になりました。若者は早くやすんで、昨夜の夢のつづきを見ようと、寝床に入りました。寝苦しい夜で、汗ばむ体をもとあましながら、何度も寝返りを打ちました。それでも、昼間の疲れがどっと出てきて、いつのまにかウトウトしかけていました。
 何か音がしたような気がして、若者は眼をさましました。耳をすましていると、裏戸を小さくトントンと叩く者が居ます。心をはずませ外に出てみると、昨夜の娘が眼を伏せて立っていました。
『ああ、あなたは… 夢ではなかったんですね』
 若者は娘の手をとり、喜びを満面に溢れさせて、奥に引き入れました。

 そんなことが毎晩つづき、夜の明けないうちに、娘はどこへともなく帰って行きます。娘が一体、どこからやって来るのか、そしてその名前さえも若者は知らないままでした。
 それに気がついたのは、お盆が過ぎて秋風の立ち始めたころです。ある夜、若者は、いつものような甘い語らいのあとで、娘の素性を訊ねました。
 すると娘は、はじかれたように後ずさり、若者の顔をじっと見つめて、しばらくは黙ったままでした。やがて娘は、か細い声で言いました。
『私が、どこから来て、どこへ帰ってゆくのか、何も聞かないでください。それを話してしまえば、私はもう、ここへは来られなくなります。それが悲しくて…』
 そう言って娘は泣きくずれました。何度もしゃくりふげるその肩をやさしく撫でながら若者は、娘をいとしく思いはじめていました。

 それからというもの、若者は何も訊ねず、ひたすら夜を待ち、楽しいひとときを過ごすことに没頭しました。

 秋が過ぎ、厳しい冬になりました。もう近頃では漁に出ることもなく、昼間は夜のつづきの夢を見て、若者はのらりくらりと生きるようになっていました。その上、娘に精を吸い取られてしまったのか、次第にやせ細ってゆくようでした。

 みぞれの降るある夜、若者はとうとう体をこわして寝込んでしまう羽目になりました。それでも娘はトントンと裏戸を叩き、すーっと入って来て、若者の枕辺に座りました。そして、いつものように眼をふせたまま、そっとにじり寄って来るのです。
『今夜は、もう駄目だ。しばらく、そっとしておいてくれ。そのうちまた元気を取り戻すから』
 さすがの若者も力無く、そう言って眼をつぶりました。

 すると娘は、にっこり笑って勝ち誇ったように口を開きました。
『今だから申しましょう。私は、この浜に住むツウボ貝です。私には末を契ったコウボ貝が居ました。いつも私たちは、仲良く波乗りをしたり、砂にもぐったり、潮のかけっこをしたりして楽しく暮らしていました。ところが、夏が近づいたあの日、そう、あの霧雨の降る夕方です。あなたは私の大事なひとを鍬で叩き殺してしまいました。私は、その仇を討つために…』
 そこまで言って、娘は、また笑いました。しかし、その笑顔は、口元だけが少し動く程度の、ぞっとするような冷たさがあったといいます。そして、声までが老婆のようにしわがれて低く、若者のはらわたをえぐるように響きました。
『私は、その仇を討つために、夜毎、あなたのもとに通って来たのです。あなたは、日に日に、やせおとろえてきました。でも、まだ当分は死にません。このまま動くことも出来ず、死ぬことも出来ず、しばらくの間、苦しみを味わうことです。それでもまだ私の恨みは晴れませんが、私も、もう力つきてしまいました。だから…』
 酒に酔ってでもいるように、娘はゆっくり立ち上がりました。その眼には二筋の涙が、暗がりの中にもはっきりと見えたそうです。
『だから、海へ戻って、いとしい方のそばへ参ります』
 そう言い終えると、すーっと娘の姿はかき消えました。

 それから何ヶ月もの永い間、若者は寝たままで生きつづけました。
『ツウボ貝も、コウボ貝も、俺は、あんまり採りすぎた。知らなんだ、知らなんだ。ツウボ貝も、コウボ貝も…』
 朝も、昼も、夜も、毎日毎日、若者は、そんなウワゴトを言いつづけ、そして飢え死んだということです。


富田義弘著「平家最後の砦 ひこしま昔ばなし」より

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Posted on 2020/03/30 Mon. 09:28 [edit]

category: ひこしま昔ばなし

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金の蔓 

金の蔓


 むかし、田ノ首の岬の上に、大きな金の蔓が生えていて、朝夕さんぜんと輝いていた。

 里びとはもちろんのこと、ここらを航海する舟びとも、この不思議な現象に心うたれて、誰も取る者はいなかったが、ある日のこと、欲の深いマドロスが、ひそかにこの金の蔓を根元から引き抜き、船に積んで出航した。

 すると、たちまち大風が起こり、船はそのすぐ近くにある鳴瀬の暗礁に打ち上げ、木っ端微塵に砕けて、マドロスたちは、一人残らず激流にのまれて死んだ。

 そのため、この不思議な金の蔓は、永久に姿を消したが『金のツル岬』と呼ばれて、名前だけは残された。


富田義弘著「平家最後の砦 ひこしま昔ばなし」より

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Posted on 2020/03/29 Sun. 10:37 [edit]

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七里七浦七えびす 

七里七浦七えびす


 島は 七島
 回れば 七里
 七里 七浦 七恵比寿

 古くから『彦島謡』の一節に、こんな文句がある。

 むかし、平家全盛のころ、平清盛は、平家の祈願所を設けるために、全国に『七里七浦』の地を探させた。それは、七という数字が縁起のいい数だからで、家来たちは全国津々浦々、くまなく探しまわり、結局残ったのが、長門の彦島と安芸の宮島の二カ所になった。
 しかし、彦島は、七浦だけは揃っていたが周囲を測ってみると六里十五町五十一間(約25.3キロメートル)で、七里に少しばかり足りなかった。
 そのため、平家の祈願所は、安芸の宮島に取られてしまったが、そのくやしさを、彦島の人びとは『島は七島、七えびす』と、うたったという。


 ところで、『七えびす』というのは、次の七づくしのことだそうだ。

◎七島

 引島 彦島本島
 舟島 巌流島、船島とも書く
 舞子島 西山の泊まりの沖にあった島
 城ノ島 舞子島の西寄りの島、城ノ子嶋ともいう
 間横島 西山の獅子ケ口の沖にあったという島
 竹ノ子島 竹ノ子島
 伝馬島 福浦湾の海賊島(リンゴ山ともいう)

◎七浦

 天ノ浦 海士郷
 江合ノ浦 江ノ浦
 小福浦 福浦
 百ノ浦 荒田の南の浜 桃の浦とも書く
 宮ノ浦 彦島八幡宮前の浜(三井東圧構内)
 伊佐木浦 西山の伊佐武田の浜、伊佐野浦とも書く
 鯉ノ浦 西山の伊無田の浜 恋の浦とも書く

◎七崎

 浦辺崎 海士郷の小戸寄り
 鉾崎 ホーサキ 本村の林兼造船第二工場付近
 鎌崎 江ノ浦桟橋通りバス停付近
 鋤崎 スキザキ 彦島中学と福浦口との中間 塩谷の辺り
 硴崎 カケザキ 福浦の東隅
 佐々崎 ササザキ 荒田
 長崎 長崎町(本村七丁目)の変電所付近

◎七鬼

 鬼ヶ島 竹ノ子島の北半分
 鬼穴 西山の手トリガンス
 鬼先 西山の泊まりの浜 鬼崎とも書く
 鬼山 西山瀬戸の浜の丸山
 鬼番屋 西山丸山の眼鏡岩
 鬼ノ瀬 西山獅子ヶ口の瀬
 鬼岩 南風泊の蛸岩

◎七海賊

 海賊島 福浦湾の伝馬島 別に龍宮島ともいい現在は塩浜と陸続きになってリンゴ山
 海賊谷 塩浜の大山の麓 清水谷
 海賊泊り 塩浜の大山の北麓(福浦のカケザキにもあったという)
 海賊屋敷 福浦金比羅山の裏側
 海賊板 田の首の俎瀬
 海賊ノ瀬 田の首の鳴瀬
 海賊堤 田の首の雁谷迫の堤

◎七堤

 里堤 迫のトンダの堤(彦島有料道路の下)
 小迫堤 迫から佐々崎に通じる山中の堤
 名合浦堤 里から本村百段に通じる山中にあった用水池
 藤ヶ迫堤 老ノ山の第一高校の下にあったが今は無い
 鎌崎堤 江の浦桜町(五丁目)の地蔵坂にあった堤
 杉田堤 杉田の三菱造船アパートが建っている所にあった鯉の巣の堤
 塩谷堤 彦島中学から福浦口へ至る中ほどにあった堤

◎七瀬

 栄螺瀬 サザエノセ 西山の西海岸
 獅子ヶ口瀬 西山の突端
 俵瀬 江の裏鎌崎の沖
 沖ノ洲瀬 現在の大和町が埋め立て以前港であったころの羽根石一帯の瀬
 中州の瀬 巌流島の沖の瀬
 死の瀬 弟子待沖の与治兵衛ヶ瀬
 仏の瀬 小戸の身投げ岩付近の瀬


富田義弘著「平家最後の砦 ひこしま昔ばなし」より

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Posted on 2020/03/28 Sat. 09:01 [edit]

category: ひこしま昔ばなし

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左眼が細い 

左眼が細い


 今から八百年も昔の話。

 ある秋風の身に沁む夕刻、里の西南の海から、一筋の光が立ちのぼっているのを漁師が見つけた。漁師は早速、島の人びとに知らせ、人びとは河野通次にも報告した。
 大急ぎで駆けつけた通次は、矛を片手に海中に飛び込み、光を指して泳いだ。そして、その中ほどに矛を突きさすと、八幡尊像があがって来た。尊像の背面には、河野八幡、と刻まれていたが、いたわしいことに、矛は尊像の左眼を貫いていた。

 さっそく通次は舞子島に祠を建て、光格殿と名付けて島の守り本尊にしたが、そり以来、彦島の十二苗祖と呼ばれる人びとは、代々、現在に至るまで左眼が細いといわれている。


富田義弘著「平家最後の砦 ひこしま昔ばなし」より
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Posted on 2020/03/26 Thu. 11:01 [edit]

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