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彦島のけしき

山口県下関市彦島から、風景・歴史・ものがたりなど…

消える血のり 

舟島怪談 消える血のり


 おらが心と巌流島は
  他に気がない待つばかり

 と、俗謡に唄わ すれるこの島が、『ほかに木がない、松ばかり』であったころは、まだ多くの松ノ木を青々と繁らせていました。

 ある年の、春浅い日のことです。近くの漁師が、舟島の沖合いで魚を釣っていると、
『オーイ』
 松林の中から呼び声が聞こえてきました。漁師は、あたりを見回しましたが、自分のほかには舟も人影もありません。しかし、呼び声は何度も繰り返されて聞こえてきます。
 漁師は不思議に思いながら、声のするほうへ舟を漕ぎ寄せ、舟島にあがってみました。
 すると一本の松の大木に、色白の若者が寄りかかるような形で死んでいました。よく見るとその額は、ぱっくりと割られています。
 驚いた漁師は、それでも気丈な男で、若者の死体を舟に乗せ、あわてふためいて浦に帰りました。ところが、さて死体をおろそうと菰を取ってみると、いつのまにか消えてしまったのか死体がありません。しかし、舟板にはベッタリ血のりがついていました。
 漁師は、舟が大波にゆられた時にでも、海に落としてしまったのだろうかと、いぶかりながら陸にあがり、仲間を集めて戻ってみますと、今度は、そこに付いていた血のりさえも、いつのまにか、かき消されてあとかたもありません。

 浦の漁師たちは、毎年、春が近くなると、必ず誰かがそんな経験をもっていましたので、
『ああ、また今年もか』
 と、恐れおののいて、その翌年からは、冬が去りはじめたころ、舟島からどんな呼び声が聞こえてきても、決して島に近づかなかったといわれています。


富田義弘著「平家最後の砦 ひこしま昔ばなし」より

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Posted on 2020/02/16 Sun. 10:02 [edit]

category: ひこしま昔ばなし

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