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彦島のけしき

山口県下関市彦島から、風景・歴史・ものがたりなど…

島が動く 

島が動く


 むかし、竹ノ子島は、二つに分かれて、一方の島には鬼がようけ(たくさん)居ったので、『鬼ヶ島』と呼ばれていた。これは、そのころの話。

『オーイ、大変だぁ』
 鬼どもが集まって酒を飲んでおると、赤鬼が、大声でわめきながら青うなって飛び込んできた。
『どうした、どうした』
『何事が起こったんじゃい』
 鬼どもはゾロゾロ寄って来て、青い顔をしてブルブルふるえ、物も言えん赤鬼を取り囲んで座った。
『出てみい。むこうの島が、こっちいやって来よる』
『バカッ、落ち着けいや』
『むこうの島から、一体、誰が来よるんじゃ』
『いや、違うっちゃ。島が、島がのう、島が動いて、こっちい来るんや。危ないけえ早よう逃げよう』
『こいつ、気がおかしゅうなりおったぞ。ほっちょけ、ほっちょけ』

 鬼どもはゲラゲラ笑いながら、腰をあげて外に出て行ったが、ひょいと砂浜のむこうを見て、ぶったまげた。
 南側の大きいほうの島が、ジワーッ、ジワーッと、こっちに近づいて来よったからだ。それだけじゃない。鬼どもが住んでおるこっちの島も、コソリッ、コソリッと動いちゃあ向こうに近づきつつある。眼を広げてよう見ると、むこうの島は、波までけたてて、速度を早めたらしいので、さあ大変。

 赤鬼も青鬼も、みんな青うなって、青鬼の奴なんざあ紺屋の紺つぼに落ち込んだように青うなって、ころげて逃げた。
 どいつもこいつも我さきにと浜の舟に飛び乗って、慌てた奴らがゴチャゴチャに漕ぎはじめた。平常から悪いことばかりして居る鬼どもは天罰てきめん。
 北へ逃げた奴は『螺ノ瀬』にぶつかって全滅、南へ漕いだ舟は『獅子ヶ口の瀬』に呑まれて、みんなオダブツ。

 それまでは、鬼の居る『鬼ヶ島』と、人間の住む『竹ノ子島』の間は、だいぶ離れておったが、この二つの島はその日から一つになって、それでも、まだこまぁい(小さい)竹ノ子島が出来た。


富田義弘著「平家最後の砦 ひこしま昔ばなし」より

(注)
竹ノ子島付近には、鬼の伝説が多く残されている。
鬼といえば、何となく凄みのある話を想像させるが、この辺りで聞く『鬼』は一様にとぼけた味があって面白い。
『獅子ヶ口』『栄螺瀬』『蛸岩』など、鬼にまつわる伝説は多いが、年々、忘れられてゆくのがたまらなくつらい。
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Posted on 2019/12/13 Fri. 10:59 [edit]

category: ひこしま昔ばなし

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