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彦島のけしき

山口県下関市彦島から、風景・歴史・ものがたりなど…

六連のあやかし 

六連のあやかし


 下関の離島、六連島は、その周辺に浮かぶ、馬島、藍ノ島、白島などをふくめて霧の名所として名高く、それだけ舟の遭難もまた多かった。
 だから漁師たちは、昔から、この付近には『海坊主が出る』とか、『あやかしにやられる』とか言ったものだった。そして、霧の深い時など、ことさら舟を出すことを恐れていた。


 こんな話がある。

 夜釣りに出た漁師が、ウトウト眠りかけていると、目の前に大きな怪物があらわれた。
 それは、四斗樽くらいの目をギョロ、ギョロさせ、口は耳まで裂けた大入道で、今にもこの小舟をひと呑みにしようとしている。それを見て漁師は、とたんに眼をまわした。

 しばらくして正気に戻ってみると、あたりには、何の姿も見えなかったという。
 これを海坊主というのであろう。


 また、ある時こんなことがあった。

 ある霧の深い夜であった。一人の漁師がいつものように夜釣りに出ていると、突然、自分の舟が同じ場所をクルクルと輪をかいて回りはじめた。それは、目のくらむほどの早さで、漁師は、今にも舟から海に放り出されそうであった。
 漁師は生きた心地もなく、ただ目をつむったまま、『南無阿弥陀仏』『南無阿弥陀仏』と夢中で唱えた。
 すると舟の回転はだんだんゆるみ、しばらくしてピタリと止まった。
 これが、いわゆる『あやかし』に襲われたというのであろう。


 まだ、ある。

 漁師が、真っ暗い闇の中を走らせていると、目の前に、こちらを向いて矢のように走ってくる舟があった。
『危ない!』
 と、とっさにかじをかえてみたが、どうしてもかわらない。向こうの舟はますます速力を増してばく進して来る。あせればあせる程、こちらの舟は吸いつけられるように、向こうの舟の真っ正面に向かって進む。
 アッ、衝突!
 失神した漁師がふと正気に戻ってみると、そこには、さきほどの舟の姿も見えないし、自分の舟は何も異常なかったという。


 またある時には、何者かが、空から『水をくれ、水をくれ』と叫んで、舟を追っかけて来ることもあったし、海の底から何か大きな網でグイグイと舟を引っぱり込まれそうになったこともあったというが、これらはすべて『あやかし』という魔物の仕業であろうか。


富田義弘著「平家最後の砦 ひこしま昔ばなし」より

(注)
この話は『ながとの民話』に書かれている。
『馬関覚え帳』や『下関の伝説』によれば、六連島西教寺の鐘が鳴ったとたんに、海坊主や、あやかしは消えてしまった、と書いてある。
ところで、六連島という名の起こりについては、
『むかし、麻生与三衛門尉高房ら六人が蟹島にやって来て住みつき、島を六等分して、「六人が末永く、手を連ねて生きてゆこう」と誓い合ったことから六連島と名付けられた』という説がある。『手を連ねて』というのは、『手を取り合って』つまり協力の意である。
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Posted on 2019/12/11 Wed. 10:14 [edit]

category: ひこしま昔ばなし

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