彦島のけしき
山口県下関市彦島から、風景・歴史・ものがたりなど…
あまいあめのあめ
あまいあめのあめ
インドの昔話
むかしむかし、インドのある村に、ラクシュミとラーマという姉弟が住んでいました。
姉のラクシュミは十二歳で、弟のラーマは八歳です。
かわいそうな事に姉弟のお父さんもお母さんも病気で死んでしまい、二人に残されたのは庭のある家と、ほんの少しのお金だけです。
ラクシュミは村の家々のお手伝いをして、わずかなお金をもらうことにしたのですが、それだけではその日の食べ物を買うだけでお金は無くなってしまいます。
そこでラクシュミは、弟のラーマに言いました。
「ねえ、ラーマ。
これからは庭に野菜をつくって、市場に売りに行きましよう。
この家の土地はとってもいい土だって、お母さんが言っていたから」
すると弟は、こう答えました。
「いいけど、おやつにアメを買っておくれよ」
そこで姉は家にあるお金をかき集めると、市場へ行って野菜の種とアメを買って来ました。
そして二人は、庭を耕し始めました。
でも小さな庭でしたから、子どもでもそんなに時間はかかりません。
もう少しで、耕し終わる時、
カキン!
と、クワに何か固い物が当たった様な音がしました。
「何だろう?」
二人が掘ってみると、何と金貨や宝石がたくさん入ったつぼが出てきたではありませんか。
「すごい・・・」
姉は驚きの余り、それ以上の言葉が出ません。
これだけあれば、一生食べるには困らないでしょう。
弟は大喜びで駆け出しながら、言いました。
「すごいよ! ぼくたちは大金持ちだ! さっそく、みんなに自慢しなくちゃ!」
「・・・えっ? あっ、言いふらしては駄目よ!」
姉はあわてて弟を止めようとしましたが、もう弟の姿はありません。
「大変だわ!
ラーマの事だから、村中に宝物の事をしゃべってしまう。
そうしたら欲張りな大人たちがやって来て、この宝物を横取りしてしまうかもしれない。
どうしよう?
何か良い方法・・・。そうだわ!」
かしこい姉は急いでつぼを取り出すと、だれにも見つからない場所に隠しました。
そしてつぼがあった穴を埋めて平らにすると、そこに野菜の種をまいて水をやりました。
それから買ってきたアメを鍋に入れて、水と一緒に煮溶かしました。
さて、しばらくして戻ってきた弟は村中を走り回って疲れたのか、庭のマンゴーの木の下のベッドでたちまち寝てしまいました。
姉は溶かしたアメをおわんに入れてマンゴーの木に登ると、上からパラパラと振りまきました。
溶けたアメは太陽の光にキラキラと輝きながら、弟のまわりに降り注ぎます。
アメをまき終えた姉は、木から下りると弟に言いました。
「ラーマ、ラーマ、起きてよ。空からアメの雨が降ってきたのよ」
「えっ?!」
弟はびっくりして目を覚ますと、手に付いたアメをなめながら言いました。
「本当だ。この雨、とっても甘いや」
うれしそうに手をなめる弟に、姉は言いました。
「さあ、アメの雨でべたべただから、はやく水浴びをしていらっしゃい」
「はーい」
そして弟が水浴びに出かけたすきに、姉は降らしたアメの雨をきれいに拭き取りました。
ちょうどその時、大勢の村人たちが二人の家にやってきたのです。
(何とか、間にあったわね)
姉は何食わぬ顔で、村人たちを出迎えました。
「あら? みなさんおそろいで、どうしたのですか?」
すると村人たちは、口々に言いました。
「宝が出たんだってな。出てきた宝を見せてくれよ」
「かわいいラクシュミ、ラーマ。わたしはあんたたちの遠い親戚だよ。だから宝物をわけておくれ」
「その宝は、おれが以前に埋めた物だ。早く返してくれ!」
「宝は王さまの物だ。ネコババすると、死刑だぞ」
村人たちは、自分勝手な事を言い出します。
でも姉は慌てることなく、不思議そうな顔で言いました。
「まあ、うちのラーマが宝が出たと言ったのですか?
でもみなさん、あわてんぼうですね。
ラーマがどんなにおしゃべりで、ある事ない事何でも言いふらすのはご存じでしょう?」
ちょうどそこへ水浴びを終えた弟がやってきたので、姉は弟に言いました。
「ラーマ、今日何があったのか、お姉ちゃんに話してごらんなさい」
すると弟は、得意になって言いました。
「うん。今日、ぼくとお姉ちゃんが畑を耕していたら、ものすごい宝物が出てきたんだよ」
「それから?」
「うん。それから、さっきお昼寝をしていたら、空からアメの雨が降ってきたんだ。とっても甘かったよ」
それを聞いた村人は、弟に尋ねました。
「空から、アメの雨が降ってきたって?!」
「うん、そうだよ。甘いアメの雨が空から降ってきたんだ」
それを聞いたみんなは、ゲラゲラと笑い出しました。
「あははははっ。ラクシュミの言う通り、おれたちはあわてんぼうだったよ」
「そうねえ、まさかこんなところに、宝物があるわけがないものね」
「馬鹿馬鹿しい。帰ろう、帰ろう」
そう言って、村人たちは帰って行きました。
その後、姉は隠しておいた宝を村人が怪しまない程度に少しずつ取り出して使い、二人とも末永く幸せに暮らしたということです。
おしまい
インドの昔話
むかしむかし、インドのある村に、ラクシュミとラーマという姉弟が住んでいました。
姉のラクシュミは十二歳で、弟のラーマは八歳です。
かわいそうな事に姉弟のお父さんもお母さんも病気で死んでしまい、二人に残されたのは庭のある家と、ほんの少しのお金だけです。
ラクシュミは村の家々のお手伝いをして、わずかなお金をもらうことにしたのですが、それだけではその日の食べ物を買うだけでお金は無くなってしまいます。
そこでラクシュミは、弟のラーマに言いました。
「ねえ、ラーマ。
これからは庭に野菜をつくって、市場に売りに行きましよう。
この家の土地はとってもいい土だって、お母さんが言っていたから」
すると弟は、こう答えました。
「いいけど、おやつにアメを買っておくれよ」
そこで姉は家にあるお金をかき集めると、市場へ行って野菜の種とアメを買って来ました。
そして二人は、庭を耕し始めました。
でも小さな庭でしたから、子どもでもそんなに時間はかかりません。
もう少しで、耕し終わる時、
カキン!
と、クワに何か固い物が当たった様な音がしました。
「何だろう?」
二人が掘ってみると、何と金貨や宝石がたくさん入ったつぼが出てきたではありませんか。
「すごい・・・」
姉は驚きの余り、それ以上の言葉が出ません。
これだけあれば、一生食べるには困らないでしょう。
弟は大喜びで駆け出しながら、言いました。
「すごいよ! ぼくたちは大金持ちだ! さっそく、みんなに自慢しなくちゃ!」
「・・・えっ? あっ、言いふらしては駄目よ!」
姉はあわてて弟を止めようとしましたが、もう弟の姿はありません。
「大変だわ!
ラーマの事だから、村中に宝物の事をしゃべってしまう。
そうしたら欲張りな大人たちがやって来て、この宝物を横取りしてしまうかもしれない。
どうしよう?
何か良い方法・・・。そうだわ!」
かしこい姉は急いでつぼを取り出すと、だれにも見つからない場所に隠しました。
そしてつぼがあった穴を埋めて平らにすると、そこに野菜の種をまいて水をやりました。
それから買ってきたアメを鍋に入れて、水と一緒に煮溶かしました。
さて、しばらくして戻ってきた弟は村中を走り回って疲れたのか、庭のマンゴーの木の下のベッドでたちまち寝てしまいました。
姉は溶かしたアメをおわんに入れてマンゴーの木に登ると、上からパラパラと振りまきました。
溶けたアメは太陽の光にキラキラと輝きながら、弟のまわりに降り注ぎます。
アメをまき終えた姉は、木から下りると弟に言いました。
「ラーマ、ラーマ、起きてよ。空からアメの雨が降ってきたのよ」
「えっ?!」
弟はびっくりして目を覚ますと、手に付いたアメをなめながら言いました。
「本当だ。この雨、とっても甘いや」
うれしそうに手をなめる弟に、姉は言いました。
「さあ、アメの雨でべたべただから、はやく水浴びをしていらっしゃい」
「はーい」
そして弟が水浴びに出かけたすきに、姉は降らしたアメの雨をきれいに拭き取りました。
ちょうどその時、大勢の村人たちが二人の家にやってきたのです。
(何とか、間にあったわね)
姉は何食わぬ顔で、村人たちを出迎えました。
「あら? みなさんおそろいで、どうしたのですか?」
すると村人たちは、口々に言いました。
「宝が出たんだってな。出てきた宝を見せてくれよ」
「かわいいラクシュミ、ラーマ。わたしはあんたたちの遠い親戚だよ。だから宝物をわけておくれ」
「その宝は、おれが以前に埋めた物だ。早く返してくれ!」
「宝は王さまの物だ。ネコババすると、死刑だぞ」
村人たちは、自分勝手な事を言い出します。
でも姉は慌てることなく、不思議そうな顔で言いました。
「まあ、うちのラーマが宝が出たと言ったのですか?
でもみなさん、あわてんぼうですね。
ラーマがどんなにおしゃべりで、ある事ない事何でも言いふらすのはご存じでしょう?」
ちょうどそこへ水浴びを終えた弟がやってきたので、姉は弟に言いました。
「ラーマ、今日何があったのか、お姉ちゃんに話してごらんなさい」
すると弟は、得意になって言いました。
「うん。今日、ぼくとお姉ちゃんが畑を耕していたら、ものすごい宝物が出てきたんだよ」
「それから?」
「うん。それから、さっきお昼寝をしていたら、空からアメの雨が降ってきたんだ。とっても甘かったよ」
それを聞いた村人は、弟に尋ねました。
「空から、アメの雨が降ってきたって?!」
「うん、そうだよ。甘いアメの雨が空から降ってきたんだ」
それを聞いたみんなは、ゲラゲラと笑い出しました。
「あははははっ。ラクシュミの言う通り、おれたちはあわてんぼうだったよ」
「そうねえ、まさかこんなところに、宝物があるわけがないものね」
「馬鹿馬鹿しい。帰ろう、帰ろう」
そう言って、村人たちは帰って行きました。
その後、姉は隠しておいた宝を村人が怪しまない程度に少しずつ取り出して使い、二人とも末永く幸せに暮らしたということです。
おしまい
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20
おくびょうウサギ
おくびょうウサギ
ジャータカ物語
むかしむかし、インドの西の海岸のヤシの木の林に、ビルバという木が生えていました。
そこにはとてもおくびょうなウサギが住んで、昼寝をしながらこんなことを考えました。
「もしもこの地面がわれたら、いったいぼくはどうなるんだろう?」
するとそのとき、すぐそばの地面で、バシンと、ものすごい音がしました。
「そらきた! 地面がとうとうわれたぞ!」
おくびょうなウサギははね起きて、いちもくさんに逃げ出しました。
「どうしたの? なにかあったの?」
ほかのウサギたちが聞くと、おくびょうなウサギはふり向きもせずに走りながら答えました。 「地面がわれたんだ! 大急ぎで安全な場所へ逃げるんだ!」
「何と、それは大変だ!」
ウサギたちはおくびょうなウサギのあとに続いて、いっせいにかけ出しました。
それを見た、森や野原のけものたちが、
「どうしたんだ? どうしたんだ?」
と、言いながら、ウサギたちのあとに続いてかけ出しました。
ウサギの次にシカ、次にイノシシ、次に大シカ、次に水牛(すいぎゅう)、次に野牛(やぎゅう)、次にサイ、次にトラ、そして最後にゾウです。
おくびょうなウサギを先頭にして、それはもう大変なさわぎです。
森の奥には、一頭の大きなライオンが住んでいました。
ライオンは、逃げていくけものたちを見て、
「止まれ、止まれ、止まれ! いったい何事だ!」
と、ものすごい声で怒鳴りました。
するとみんなはびっくりして、その場に止まりました。
ライオンの質問に、ゾウが答えました。
「はい、地面がわれたのです」
「地面がわれた? お前はそれを見たのか?」
「いいえ。わたしはトラに聞きました」
すると、トラが言いました。
「わたしは、サイに聞きました」
次に、サイが言いました。
「わたしは、野牛に聞きました」
野牛が、言いました。
「わたしは、水牛に聞きました」
水牛が、言いました。
「わたしは、大シカに聞きました」
大シカが、言いました。
「わたしは、イノシシに聞きました」
イノシシが、言いました。
「わたしは、シカに聞きました」
シカが、言いました。
「わたしは、ウサギに聞きました」
ウサギが、言いました。
「わたしたちは、先頭のウサギに聞きました」
ライオンは、先頭のおくびょうなウサギに聞きました。
「お前は、本当に地面がわれるのを見たのか?」
「はい、聞きました。たしかに、バリリリッ! と地面のわれる音がしました」
「見ていないのか? 聞いただけでは、あてにならない。どれ、わしが調べてきてやる。みんなはここで待っていなさい」
大きなライオンはおくびょうなウサギを背中に乗せて風よりも速く走り、ビルバの木がまじって生えたヤシの林に着きました。
「ここです。この木の下で聞いたのです」
「・・・やれやれ。よくごらん。どこの地面が割れているというのだね。お前が聞いた音というのは、これが落ちた音だったのではないのかね?」
ライオンはそばに落ちている、大きなビルバの実をころがしていいました。
「あっ。・・・そうかも、しれません」
おくびょうなウサギは、恥ずかしそうに答えました。
ライオンはおくびょうなウサギを乗せて、大急ぎでけものたちのところへ帰りました。
そして、見てきたことを話しました。
「いいかね。よく確かめもせずに、ほかの者が言った言葉を信じてはいけないよ」
ライオンにしかられて、けものたちはすごすごと自分たちの住み家に帰っていきました。
おしまい
ジャータカ物語
むかしむかし、インドの西の海岸のヤシの木の林に、ビルバという木が生えていました。
そこにはとてもおくびょうなウサギが住んで、昼寝をしながらこんなことを考えました。
「もしもこの地面がわれたら、いったいぼくはどうなるんだろう?」
するとそのとき、すぐそばの地面で、バシンと、ものすごい音がしました。
「そらきた! 地面がとうとうわれたぞ!」
おくびょうなウサギははね起きて、いちもくさんに逃げ出しました。
「どうしたの? なにかあったの?」
ほかのウサギたちが聞くと、おくびょうなウサギはふり向きもせずに走りながら答えました。 「地面がわれたんだ! 大急ぎで安全な場所へ逃げるんだ!」
「何と、それは大変だ!」
ウサギたちはおくびょうなウサギのあとに続いて、いっせいにかけ出しました。
それを見た、森や野原のけものたちが、
「どうしたんだ? どうしたんだ?」
と、言いながら、ウサギたちのあとに続いてかけ出しました。
ウサギの次にシカ、次にイノシシ、次に大シカ、次に水牛(すいぎゅう)、次に野牛(やぎゅう)、次にサイ、次にトラ、そして最後にゾウです。
おくびょうなウサギを先頭にして、それはもう大変なさわぎです。
森の奥には、一頭の大きなライオンが住んでいました。
ライオンは、逃げていくけものたちを見て、
「止まれ、止まれ、止まれ! いったい何事だ!」
と、ものすごい声で怒鳴りました。
するとみんなはびっくりして、その場に止まりました。
ライオンの質問に、ゾウが答えました。
「はい、地面がわれたのです」
「地面がわれた? お前はそれを見たのか?」
「いいえ。わたしはトラに聞きました」
すると、トラが言いました。
「わたしは、サイに聞きました」
次に、サイが言いました。
「わたしは、野牛に聞きました」
野牛が、言いました。
「わたしは、水牛に聞きました」
水牛が、言いました。
「わたしは、大シカに聞きました」
大シカが、言いました。
「わたしは、イノシシに聞きました」
イノシシが、言いました。
「わたしは、シカに聞きました」
シカが、言いました。
「わたしは、ウサギに聞きました」
ウサギが、言いました。
「わたしたちは、先頭のウサギに聞きました」
ライオンは、先頭のおくびょうなウサギに聞きました。
「お前は、本当に地面がわれるのを見たのか?」
「はい、聞きました。たしかに、バリリリッ! と地面のわれる音がしました」
「見ていないのか? 聞いただけでは、あてにならない。どれ、わしが調べてきてやる。みんなはここで待っていなさい」
大きなライオンはおくびょうなウサギを背中に乗せて風よりも速く走り、ビルバの木がまじって生えたヤシの林に着きました。
「ここです。この木の下で聞いたのです」
「・・・やれやれ。よくごらん。どこの地面が割れているというのだね。お前が聞いた音というのは、これが落ちた音だったのではないのかね?」
ライオンはそばに落ちている、大きなビルバの実をころがしていいました。
「あっ。・・・そうかも、しれません」
おくびょうなウサギは、恥ずかしそうに答えました。
ライオンはおくびょうなウサギを乗せて、大急ぎでけものたちのところへ帰りました。
そして、見てきたことを話しました。
「いいかね。よく確かめもせずに、ほかの者が言った言葉を信じてはいけないよ」
ライオンにしかられて、けものたちはすごすごと自分たちの住み家に帰っていきました。
おしまい
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19
おばあさんの家
おばあさんの家
ドイツの昔話
むかしむかし、海を見おろす丘の上の小さな家で、貧乏(びんぼう)なおばあさんが一人ぼっちで住んでいました。
おばあさんは体が悪くて、何年も寝たきりでした。
「暗くなってきたわ。日が暮れるのかしら?」
おばあさんは、海を見ました。
「おや? あの雲(くも)・・・」
水平線の上に、黒い小さい雲が浮かんでいます。
「おじいさんが、よく雲の話をしてくれたけれど」
なくなったおじいさんは船乗りで、大きい船に乗って世界中を回っていたのです。
おばあさんは、ハッとしました。
「たいへん! あの雲はあらしの前ぶれ。もうすぐ恐ろしいあらしが、大波をつれて押し寄せてくるわ。町の人に早く知らせないと」
おばあさんはなんとかして、少しでも早く町の人たちに知らせなければと思いました。
でも体の悪いおばあさんには、町まで行く力がありません。
おばあさんはベッドからずり落ちると、動かない体を引きずって窓の所まではっていきました。
「町の人たち! あらしが来るよ、早く逃げて!」
おばあさんは、窓につかまってさけびました。
でも誰も、おばあさんの声に気がついてくれません。
そうしているうちにも、雲はまっ黒にふくれあがってきました。
もうすぐ山のような大波が、町の人たちをのみ込むでしょう。
「ああ、どうしたらいいんだろう?」
おばあさんは、自分の部屋を見回しました。
「そうだわ! ベッドに火をつけましょう。この家が燃えれば、町の人たちも気づくはず」
おばあさんはストーブの火をとってきて、ベッドのワラにつけました。
ワラはたちまち、真っ赤に燃え上がりました。
「燃えておくれ! 大きく燃え上がって、町の人たちを呼んでおくれ!」
おばあさんは、何とか家の外へはい出しました。
ベッドの火は強くなってきた風にあおられて、メラメラと屋根に燃えうつりました。
「火事だ! 丘の上の家が燃えてるぞ!」
町の人たちが、火事に気づいてさけびました。
「火事だ! 火事だ!」
「あの家には、病気のおばあさんが一人で寝ているんだ!」
「早く助けに行こう!」
町の人たちはみんな、丘へ向かってかけ出しました。
「おばあさん、大丈夫か!」
町の人たちがやって来ると、おばあさんは海を指さして言いました。
「大波が来るよ! みんな、はやく逃げるんだ」
「えっ! 大波が!?」
見てみると海の上は真っ黒で、おそろしい風がうなり、山のような大波が姿を現しました。
「大変だ! みんなをこの丘に連れてくるんだ!」
町に住む最後の一人が丘の途中までかけあがったとき、真っ黒い大波が町をのみ込みました。
そのようすを、町の人はふるえながら見ていました。
「おばあさんが、わたしたちを助けてくれたんだ!」
「自分のベッドや、家まで焼いて」
「ありがとう。ありがとう」
みんなの目に、うれし涙が光りました。
おばあさんの目にも、同じ涙が光っていました。
おしまい
ドイツの昔話
むかしむかし、海を見おろす丘の上の小さな家で、貧乏(びんぼう)なおばあさんが一人ぼっちで住んでいました。
おばあさんは体が悪くて、何年も寝たきりでした。
「暗くなってきたわ。日が暮れるのかしら?」
おばあさんは、海を見ました。
「おや? あの雲(くも)・・・」
水平線の上に、黒い小さい雲が浮かんでいます。
「おじいさんが、よく雲の話をしてくれたけれど」
なくなったおじいさんは船乗りで、大きい船に乗って世界中を回っていたのです。
おばあさんは、ハッとしました。
「たいへん! あの雲はあらしの前ぶれ。もうすぐ恐ろしいあらしが、大波をつれて押し寄せてくるわ。町の人に早く知らせないと」
おばあさんはなんとかして、少しでも早く町の人たちに知らせなければと思いました。
でも体の悪いおばあさんには、町まで行く力がありません。
おばあさんはベッドからずり落ちると、動かない体を引きずって窓の所まではっていきました。
「町の人たち! あらしが来るよ、早く逃げて!」
おばあさんは、窓につかまってさけびました。
でも誰も、おばあさんの声に気がついてくれません。
そうしているうちにも、雲はまっ黒にふくれあがってきました。
もうすぐ山のような大波が、町の人たちをのみ込むでしょう。
「ああ、どうしたらいいんだろう?」
おばあさんは、自分の部屋を見回しました。
「そうだわ! ベッドに火をつけましょう。この家が燃えれば、町の人たちも気づくはず」
おばあさんはストーブの火をとってきて、ベッドのワラにつけました。
ワラはたちまち、真っ赤に燃え上がりました。
「燃えておくれ! 大きく燃え上がって、町の人たちを呼んでおくれ!」
おばあさんは、何とか家の外へはい出しました。
ベッドの火は強くなってきた風にあおられて、メラメラと屋根に燃えうつりました。
「火事だ! 丘の上の家が燃えてるぞ!」
町の人たちが、火事に気づいてさけびました。
「火事だ! 火事だ!」
「あの家には、病気のおばあさんが一人で寝ているんだ!」
「早く助けに行こう!」
町の人たちはみんな、丘へ向かってかけ出しました。
「おばあさん、大丈夫か!」
町の人たちがやって来ると、おばあさんは海を指さして言いました。
「大波が来るよ! みんな、はやく逃げるんだ」
「えっ! 大波が!?」
見てみると海の上は真っ黒で、おそろしい風がうなり、山のような大波が姿を現しました。
「大変だ! みんなをこの丘に連れてくるんだ!」
町に住む最後の一人が丘の途中までかけあがったとき、真っ黒い大波が町をのみ込みました。
そのようすを、町の人はふるえながら見ていました。
「おばあさんが、わたしたちを助けてくれたんだ!」
「自分のベッドや、家まで焼いて」
「ありがとう。ありがとう」
みんなの目に、うれし涙が光りました。
おばあさんの目にも、同じ涙が光っていました。
おしまい
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16
お茶のポット
お茶のポット
アンデルセン童話
「こんにちわ。
私はお茶のポットです。
私は陶器(とうき)で出来ていますのよ。
注ぎ口は、細くて長くてすてきでしょう。
いつでしたか、どなたかがバレリーナのうでのようと、ほめてくださいましたわ。
とってのはばの広さは、どう思いまして?
何と申しましても、陶器は私のように上品(じょうひん)で、しかもおしゃれでなくては。
何しろ私は、一流(いちりゅう)の職人(しょくにん)さんが、それはそれはていねいに作ってくださいましたのよ」
お屋敷の台所で、お茶のポットはいつもじまんしていました。
でも聞かされるクリーム入れやさとう入れは、ほめるよりも、もっと別の事をよく言いました。
「ところで、ポットさんのフタはどうされました?」
その事を言われると、ポットはだまってしまいます。
フタは前に一度こわされてつぎはぎにされ、つぎ目があるのです。
「そうね。
誰でも悪いところに、目が行くものよね。
でも何と言われても、私はテーブルの上の女王よ。
だって、のどがかわいている人間を、助けてあげることが出来るんですもの。
この注ぎ口が、女王のしょうこよ。
クリーム入れもさとう入れも、言ってみれば家来じゃないの」
そんな、ある日の事。
食事の時に誰かがポットを持ちあげたひょうしに、床に落としてしまったのです。
ポットは床で音をたてて、コナゴナになってしまいました。
「それから私は、貧しい家の人にもらわれて行きましたの。
そこで土を入れられ、球根(きゅうこん)をうめられましたわ。
私は、うれしく思いました。
なぜって、球根は私の体の中でグングンと元気に育ち、芽(め)を出したのです。
そして朝をむかえるたびに大きくなり、ある朝、見事な花が咲きましたの。
花は、娘のようなもの。
まあ、お礼はもうしてくれませんでしたが、私は幸福でしたわ。
家の人たちは花を見て、その美しさをほめてくれました。
誰かを生かすために自分の命を使うって、うれしいことです。
そのとき初めて、そう思いました。
でも、家の人たちは『こんなきれいな花は、もっとすてきな植木ばちに植えた方がいいね』と、花を連れて行き、私を庭のすみに放り投げましたの。
でも、私をかわいそうなどと思わないでくださいね。
ええ、私には思い出が、たくさんあるのですから。
これだけは誰にもこわしたり、放り投げたり出来ませんのよ」
おしまい
アンデルセン童話
「こんにちわ。
私はお茶のポットです。
私は陶器(とうき)で出来ていますのよ。
注ぎ口は、細くて長くてすてきでしょう。
いつでしたか、どなたかがバレリーナのうでのようと、ほめてくださいましたわ。
とってのはばの広さは、どう思いまして?
何と申しましても、陶器は私のように上品(じょうひん)で、しかもおしゃれでなくては。
何しろ私は、一流(いちりゅう)の職人(しょくにん)さんが、それはそれはていねいに作ってくださいましたのよ」
お屋敷の台所で、お茶のポットはいつもじまんしていました。
でも聞かされるクリーム入れやさとう入れは、ほめるよりも、もっと別の事をよく言いました。
「ところで、ポットさんのフタはどうされました?」
その事を言われると、ポットはだまってしまいます。
フタは前に一度こわされてつぎはぎにされ、つぎ目があるのです。
「そうね。
誰でも悪いところに、目が行くものよね。
でも何と言われても、私はテーブルの上の女王よ。
だって、のどがかわいている人間を、助けてあげることが出来るんですもの。
この注ぎ口が、女王のしょうこよ。
クリーム入れもさとう入れも、言ってみれば家来じゃないの」
そんな、ある日の事。
食事の時に誰かがポットを持ちあげたひょうしに、床に落としてしまったのです。
ポットは床で音をたてて、コナゴナになってしまいました。
「それから私は、貧しい家の人にもらわれて行きましたの。
そこで土を入れられ、球根(きゅうこん)をうめられましたわ。
私は、うれしく思いました。
なぜって、球根は私の体の中でグングンと元気に育ち、芽(め)を出したのです。
そして朝をむかえるたびに大きくなり、ある朝、見事な花が咲きましたの。
花は、娘のようなもの。
まあ、お礼はもうしてくれませんでしたが、私は幸福でしたわ。
家の人たちは花を見て、その美しさをほめてくれました。
誰かを生かすために自分の命を使うって、うれしいことです。
そのとき初めて、そう思いました。
でも、家の人たちは『こんなきれいな花は、もっとすてきな植木ばちに植えた方がいいね』と、花を連れて行き、私を庭のすみに放り投げましたの。
でも、私をかわいそうなどと思わないでくださいね。
ええ、私には思い出が、たくさんあるのですから。
これだけは誰にもこわしたり、放り投げたり出来ませんのよ」
おしまい
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12
ヒツジに生まれ変わった娘
ヒツジに生まれ変わった娘
中国の昔話
むかしむかし、中国の役人に、ケイソクという人がいました。
彼には一人娘がいて、目に入れても痛くないほど可愛がっていたのですが、可哀想な事に、娘は十歳の時に死んでしまったのです。
それから二年ほどが過ぎたある日、ケイソクがお客さんにふるまうために市場からヒツジを買ってきてつないでおくと、その夜、母親の夢枕に死んだ娘が現れたのです。
娘が身につけている青い着物に青い玉のかんざしは、娘が死ぬ前に着ていた衣装です。
娘は、母親に言いました。
「お母さん、お久しぶりです。
わたしはお父さんやお母さんに可愛がってもらって、本当に幸せでした。
でも、その思い上がりからか、わたしは親に黙って色々物を勝手に使ったり、人にあげたりしました。
盗みではありませんが、その罪を償う前にわたしは死んでしまいました。
そして神さまに、その罪は生きている間に償わなければならないと言われました。
わたしは今、ヒツジに生まれ変わっており、その時の罪を今日償うことになりました。
お客さんにふるまうために買ってこられたヒツジの中に、毛が青白いヒツジがいますが、それがわたしです。
寿命で死ぬのは仕方ありませんが、殺されるのは嫌です。
怖いです。
お母さん、どうか、わたしを助けてください」
目を覚ました母親はびっくりして、さっそく調理場に行ってみると、白いヒツジに混じって毛の青白いヒツジが一頭いるではありませんか。
毛の青白いヒツジは母親と目が合うと、悲しそうに涙をこぼしました。
(このヒツジが、娘なのだわ!)
母親はあわてて、調理人を呼びつけて
「このヒツジを殺すのは待ってちょうだい! 主人は出かけて留守ですが、今から探しに行って、主人に事情を話して殺すのは許してやるつもりです」
と、言いました。
やがて母親と入れ違いに父親が出先から帰ってくると、宴の料理が遅れているのに気が付きました。
「何をしている。料理が遅れているではないか!」
叱られた調理人たちは、
「ですが、奥さまがヒツジを殺すなとおっしゃったのです。ご主人さまがお帰りになったら、事情を話して、殺すのは許すつもりだと」
と、言いましたが、父親はすっかり腹を立てて、
「ヒツジを許す? 何を馬鹿な事を。お客さまが待っているのだぞ。さあ、早く仕事をすすめるのだ」
と、言うので、調理人たちは仕方なく、ヒツジを料理するために天井から吊り下げました。
そこへ客人たちがやってきて、料理されようとしているヒツジを見てびっくりしました。
客人の目にはそれがヒツジではなく、十歳ばかりの可愛らしい女の子を、髪に縄をつけてぶら下げているように見えたからです。
しかもその女の子は、悲しげな顔をして、
「わたしはこの家の主の娘でしたが、ヒツジに生まれかわり、殺されようとしています。どうか皆さま、命をお助けくださいませ」
と、言うではありませんか。
そこで客人たちは口々に、
「何て事だ。料理人よ、決してヒツジを殺してはなりませんぞ。はやく主人に言って、やめさせなければ」
と、あわてて出ていきました。
けれど調理人には、つるしているのがどう見てもヒツジにしか見えませんし、その声も、ただのヒツジの鳴き声に聞こえるのです。
「奥さまも、お客さまも、おかしな人たちだ。さあ、はやく料理をしないと、ご主人さまに叱られてしまう」
料理人はそう言うと、涙を流すヒツジを殺して、さまざまな料理を作りました。
やがて客人の前に美味しそうなヒツジ料理が並べられましたが、客人たちは一口も箸をつけずに帰ってしまいました。
「おや? どうして料理を食べないのだろう?」
遅れてやって来た主人が、不思議に思って客人にわけを聞くと、
「あれほど探していたのに、あなたは今までどこへ行っていたのですか? あのヒツジは、あなたの娘さんの生まれ変わりなのですよ」
と、いうではありませんか。
ちょうどそこへやってきた母親は、料理されたヒツジを見て泣き崩れました。
やがて母親から事情を聞いた主人は、悲しみの余り病気になり、そのまま死んでしまったそうです。
おしまい
中国の昔話
むかしむかし、中国の役人に、ケイソクという人がいました。
彼には一人娘がいて、目に入れても痛くないほど可愛がっていたのですが、可哀想な事に、娘は十歳の時に死んでしまったのです。
それから二年ほどが過ぎたある日、ケイソクがお客さんにふるまうために市場からヒツジを買ってきてつないでおくと、その夜、母親の夢枕に死んだ娘が現れたのです。
娘が身につけている青い着物に青い玉のかんざしは、娘が死ぬ前に着ていた衣装です。
娘は、母親に言いました。
「お母さん、お久しぶりです。
わたしはお父さんやお母さんに可愛がってもらって、本当に幸せでした。
でも、その思い上がりからか、わたしは親に黙って色々物を勝手に使ったり、人にあげたりしました。
盗みではありませんが、その罪を償う前にわたしは死んでしまいました。
そして神さまに、その罪は生きている間に償わなければならないと言われました。
わたしは今、ヒツジに生まれ変わっており、その時の罪を今日償うことになりました。
お客さんにふるまうために買ってこられたヒツジの中に、毛が青白いヒツジがいますが、それがわたしです。
寿命で死ぬのは仕方ありませんが、殺されるのは嫌です。
怖いです。
お母さん、どうか、わたしを助けてください」
目を覚ました母親はびっくりして、さっそく調理場に行ってみると、白いヒツジに混じって毛の青白いヒツジが一頭いるではありませんか。
毛の青白いヒツジは母親と目が合うと、悲しそうに涙をこぼしました。
(このヒツジが、娘なのだわ!)
母親はあわてて、調理人を呼びつけて
「このヒツジを殺すのは待ってちょうだい! 主人は出かけて留守ですが、今から探しに行って、主人に事情を話して殺すのは許してやるつもりです」
と、言いました。
やがて母親と入れ違いに父親が出先から帰ってくると、宴の料理が遅れているのに気が付きました。
「何をしている。料理が遅れているではないか!」
叱られた調理人たちは、
「ですが、奥さまがヒツジを殺すなとおっしゃったのです。ご主人さまがお帰りになったら、事情を話して、殺すのは許すつもりだと」
と、言いましたが、父親はすっかり腹を立てて、
「ヒツジを許す? 何を馬鹿な事を。お客さまが待っているのだぞ。さあ、早く仕事をすすめるのだ」
と、言うので、調理人たちは仕方なく、ヒツジを料理するために天井から吊り下げました。
そこへ客人たちがやってきて、料理されようとしているヒツジを見てびっくりしました。
客人の目にはそれがヒツジではなく、十歳ばかりの可愛らしい女の子を、髪に縄をつけてぶら下げているように見えたからです。
しかもその女の子は、悲しげな顔をして、
「わたしはこの家の主の娘でしたが、ヒツジに生まれかわり、殺されようとしています。どうか皆さま、命をお助けくださいませ」
と、言うではありませんか。
そこで客人たちは口々に、
「何て事だ。料理人よ、決してヒツジを殺してはなりませんぞ。はやく主人に言って、やめさせなければ」
と、あわてて出ていきました。
けれど調理人には、つるしているのがどう見てもヒツジにしか見えませんし、その声も、ただのヒツジの鳴き声に聞こえるのです。
「奥さまも、お客さまも、おかしな人たちだ。さあ、はやく料理をしないと、ご主人さまに叱られてしまう」
料理人はそう言うと、涙を流すヒツジを殺して、さまざまな料理を作りました。
やがて客人の前に美味しそうなヒツジ料理が並べられましたが、客人たちは一口も箸をつけずに帰ってしまいました。
「おや? どうして料理を食べないのだろう?」
遅れてやって来た主人が、不思議に思って客人にわけを聞くと、
「あれほど探していたのに、あなたは今までどこへ行っていたのですか? あのヒツジは、あなたの娘さんの生まれ変わりなのですよ」
と、いうではありませんか。
ちょうどそこへやってきた母親は、料理されたヒツジを見て泣き崩れました。
やがて母親から事情を聞いた主人は、悲しみの余り病気になり、そのまま死んでしまったそうです。
おしまい
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